令和2年秋期試験午後問題 問4
問4 システムアーキテクチャ
⇱問題PDF
ヘルスケア機器とクラウドとの連携のためのシステム方式設計に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。
ヘルスケア機器とクラウドとの連携のためのシステム方式設計に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。
広告
C社は,ヘルスケア機器の製造販売を手掛ける中堅企業である。このたび,従来の製品である,歩数や心拍数などを測定する活動量計を改良して,クラウドを利用した新しいサービス(以下,新サービスという)を開発することになった。
〔従来の活動量計の概要〕
従来の活動量計の概要を次に示す。
従来の活動量計を基に,通信機能などを追加した新しい活動量計を開発する。測定データや手元で入力したデータをクラウド上に保存し,分析するWebサービスを開発する。そして,Webサービスの分析結果を手元の活動量計で確認できるようにすることで,次の機能を提供する。
新サービスでは,利用者の日常生活に密着してデータを24時間収集し続ける必要がある。個人のヘルスケアデータという機微な情報を取り扱うので,情報の漏えいや盗聴を防ぐ対策も重要である。新サービスの非機能要件を表1に整理した。〔システムアーキテクチャの検討〕
まず,クラウド上のシステム構成について考える。Webサーバとアプリケーションサーバは,新サービスの利用者数に応じてスケールアウトできる構成にする。データベースは,②新サービスのデータ特性からKVS(Key Value Store)を採用する。
次に,新サービスを実現するためのシステム方式について考える。三つの検討案を表2に示す。 表2の各システム方式について,その実現可能性と新サービスの利便性を評価するために,五つの評価軸を設けて整理した結果を表3に示す。 クラウド直接方式の場合,③活動量計の柔軟性と拡張性に課題がある。
モバイル端末経由方式は最も評価点が高いが,他のアプリの影響による通信のタイムアウトやバッテリー切れが原因でアプリの処理が中断されてしまうことがあるので,安定性に課題がある。この課題が解決できれば,本方式を採用できる。
専用端末経由方式の場合,安定性は優れているが,モバイル端末に匹敵する柔軟性や拡張性を備えた端末を独自に開発することは難しく,コストが高くなってしまう課題がある。
〔モバイル端末経由のシステム方式設計〕
三つのシステム方式の中で,評価点の高いモバイル端末経由方式を採用するために,安定性に関する対策を検討する。
モバイル端末において,通信のタイムアウトやバッテリー切れによってアプリの処理が中断されてしまった場合でも,測定データが消失せずに保存できるように,次の機能をアプリとして実装する。
〔従来の活動量計の概要〕
従来の活動量計の概要を次に示す。
- リストバンド型で生活防水に対応する。
- 24時間装着して,歩数や心拍数,睡眠時間を記録する。
- 横10文字,縦2文字のモノクロ液晶画面に,現在時刻や測定中のデータ,記録されたデータを表示できる。
- 四つのボタンを備えており,表示切替えや数値入力など簡単な操作ができる。
- 測定データ記録用のメモリ容量は64Mバイトあり,使用中のメモリが一杯になったときには,データの古いものから順に新しいデータに上書きされる。
従来の活動量計を基に,通信機能などを追加した新しい活動量計を開発する。測定データや手元で入力したデータをクラウド上に保存し,分析するWebサービスを開発する。そして,Webサービスの分析結果を手元の活動量計で確認できるようにすることで,次の機能を提供する。
- 1日24時間の総消費カロリーを推測する機能
歩数や心拍数などの測定データを長期間保存して,消費カロリーと基礎代謝を推測し,利用者の日々の総消費カロリーをグラフで示す。 - 歩行やジョギングなど運動についてアドバイスする機能
事前登録した身長や体重,目標体重などの情報から,利用者に適切な運動種目と時間を提案する。 - 献立など食生活についてアドバイスする機能
飲食した内容を文字や写真で記録することで,利用者に栄養バランスの良い献立を提案する。
新サービスでは,利用者の日常生活に密着してデータを24時間収集し続ける必要がある。個人のヘルスケアデータという機微な情報を取り扱うので,情報の漏えいや盗聴を防ぐ対策も重要である。新サービスの非機能要件を表1に整理した。〔システムアーキテクチャの検討〕
まず,クラウド上のシステム構成について考える。Webサーバとアプリケーションサーバは,新サービスの利用者数に応じてスケールアウトできる構成にする。データベースは,②新サービスのデータ特性からKVS(Key Value Store)を採用する。
次に,新サービスを実現するためのシステム方式について考える。三つの検討案を表2に示す。 表2の各システム方式について,その実現可能性と新サービスの利便性を評価するために,五つの評価軸を設けて整理した結果を表3に示す。 クラウド直接方式の場合,③活動量計の柔軟性と拡張性に課題がある。
モバイル端末経由方式は最も評価点が高いが,他のアプリの影響による通信のタイムアウトやバッテリー切れが原因でアプリの処理が中断されてしまうことがあるので,安定性に課題がある。この課題が解決できれば,本方式を採用できる。
専用端末経由方式の場合,安定性は優れているが,モバイル端末に匹敵する柔軟性や拡張性を備えた端末を独自に開発することは難しく,コストが高くなってしまう課題がある。
〔モバイル端末経由のシステム方式設計〕
三つのシステム方式の中で,評価点の高いモバイル端末経由方式を採用するために,安定性に関する対策を検討する。
モバイル端末において,通信のタイムアウトやバッテリー切れによってアプリの処理が中断されてしまった場合でも,測定データが消失せずに保存できるように,次の機能をアプリとして実装する。
- 活動量計内に保存されている測定データを,モバイル端末内のストレージに保存する機能
- モバイル端末内に保存されている測定データを,インターネット接続時にクラウド上のストレージに保存する機能
広告
設問1
〔非機能要件の整理〕について,(1)~(4)に答えよ。
- 活動量計の測定データが無い時間をサービス中断時間とすると,新サービスに求められる稼働率は何%以上か。答えは小数第2位を四捨五入して小数第1位まで求めよ。
- サービス中断時間が無いものとすると,1日に生成される活動量計の測定データは何Mバイトか。小数第1位まで答えよ。ここで,1Mバイト=1,000,000バイトとする。
- 表1中のaに入れる適切な字句を,表1中の字句を用いて答えよ。
- 表1中の下線①にある認証を加える目的は何か。新サービスの特徴に着目し,20字以内で述べよ。
解答例・解答の要点
- 97.9
- 14.4
- a:ネットワーク
- 機微な情報の漏えいを防ぐため (14文字)
解説
- 表1の継続性の欄には「1日24時間の総消費カロリーを推測するために,1日23時間30分以上の活動量計の測定データが必要である」とあります。新サービスには1日24時間のうち23時間30分以上の稼働が求められますから、必要となる稼働率は、
23.5[時間]÷24[時間]=0.979166…=97.9166…%
(小数第2位を四捨五入して)97.9%
∴97.9 - 表1の業務処理量の欄には「活動量計から1回の測定で100バイト,毎分100回の測定データが生成される」とあります。サービス中断時間とないものとして24時間分のデータを記録するとなると、1日分の総データ量は、
100[バイト]×100[回]×60[分]×24[時間]=14,400,000バイト
(Mバイト単位で小数第1位まで)14.4Mバイト
∴14.4 - 〔aについて〕
活動量計は基本24時間稼働し続けるものですが、その活動量計を付けている人が常にインターネットに接続できる環境にあるとは限りません。また常に安定した電波状況であるとも限らないので、一時的に電波状況が悪くなるなどして、クラウドへの保存が失敗することが考えられます。再実行機能はこのような状況に備えるものです。
よって、空欄にはインターネットの通信環境を示す字句が入ります。設問には「表1中の字句を用いて」という条件があるので、これに該当する字句を表1から探すと「ネットワーク」が適切となります。
∴a=ネットワーク - 新サービスでは「個人のヘルスケアデータという機微な情報を取り扱うので、情報の漏えいや盗聴を防ぐ対策が重要である」と説明されています。「機微な(センシティブ)情報」は、個人情報のうち本人に対する不当な差別または偏見に繋がる可能性があるデータなので、それを扱うシステムにはより一層の慎重な取り扱い、厳重な安全管理措置が求められます。
IDとパスワードによる認証に加え、別の方法での追加認証を要求するのは二要素認証に該当し、ヘルスケアデータのセキュリティ(機密性)を向上させる仕組みです。本システムにおける二要素認証は、ログイン情報を窃取し、正規利用者になりすましてヘルスケアデータを取得するなどの不正アクセスの脅威への対策であり、その目的は「機微な情報の漏えいを防ぐ」ことにあります。なお、模範解答に「盗聴」が含まれていないのは、「盗聴」は通信の暗号化によって防ぐべき脅威であるからです。
∴機微な情報の漏えいを防ぐため
広告
設問2
〔システムアーキテクチャの検討〕について,(1),(2)に答えよ。
(1) に関する解答群
- 新サービスの利用者間のデータを収集,分析する特性
- 新サービスの利用者単位でデータを収集,分析する特性
- 測定データを自由な構造のデータのまま収集,分析する特性
- 測定データをリアルタイムで収集,分析する特性
(2) に関する解答群
- グラフや写真の画面表示や文章データの入力は実現が難しい。
- 事前登録した情報とクラウド上に保存した測定データから,利用者の適切な運動種目と時間を推測することは難しい。
- 歩数や心拍数などの測定データから総消費カロリーの推測は難しい。
- リストバンド型の形状やサイズを維持しつつ,USBなどの入出力ポートを備えることは難しい。
解答例・解答の要点
- イ
- ア
解説
- 本サービスでは、最大利用者数10万人を見込んでおり、利用者ごとに毎分100件のデータが生成されるため、生成されるデータは最大で毎分1,000万件(毎日144億件)にもなります。いわゆるビッグデータに該当するため、RDBではなくNoSQLの採用が推奨される案件です。
NoSQLには、データを保持する形態によってKVS(Key Value Store)、カラム指向、ドキュメント指向およびグラフ指向などの種類があります。このうちKVS(Key Value Store)は、プログラミングで使用される連想配列のように、1つのキーに1つの値を結びつけてデータを格納します。下図において値は文字列ですが、RDBのようにデータ型を持たないので様々なデータを格納することが可能です。KVSでは、キーでしかアクセスできず値での絞り込みは行えませんが、利用者単位でしかデータ分析をしない本サービスでは、ユーザIDをキーとした問い合わせさえできれば充分なので、KVSで対応できます。
∴イ:新サービスの利用者単位でデータを収集,分析する特性- 新サービスで利用者間のデータを分析するという記載がないので誤りです。
- 正しい。
- 新サービスが収集する測定データは、歩数や心拍数などの定型的なデータなので誤りです。飲食した内容に関する文字や写真は、測定データには含まれません。
- 〔新サービスの概要〕には「Webサービスの分析結果を手元の活動量計で確認できるようにする」とありますが、定期的に更新すれば十分でありリアルタイム性は求められないので誤りです。
- 表3を見ると"クラウド直接方式"では柔軟性と拡張性に重大な課題があることがわかります。
〔新サービスの概要〕を読むと、次の機能が提供予定であることがわかります。- 総消費カロリーをグラフで示す
- 運動や食事についてのアドバイス
- 飲食した内容を文字や写真で記録
したがって、"クラウド直接方式"の課題を説明した文章は「ア」となります。
∴ア:グラフや写真の画面表示や文章データの入力は実現が難しい- 正しい。
- "クラウド直接方式"に限らず、どの方式でも共通の課題なので不適切です。
- "クラウド直接方式"に限らず、どの方式でも共通の課題なので不適切です。
- 活動量計には電池交換タイプと充電タイプがありますが、通常、充電タイプの活動量計はUSBポートを備えています。よって、課題とまでは言えません。
広告
設問3
〔モバイル端末経由のシステム方式設計〕について,(1),(2)に答えよ。
解答例・解答の要点
- クラウド上に保存していない測定データが消失してしまう問題 (28文字)
- 活動量計本体のメモリ量を7日分以上に増やす (21文字)
解説
- 下線④の問題は、活動量計とモバイル端末が最大で7日間通信できない状況をシミュレーションをしたときに発生しています。
設問1(2)で計算したように、活動量計が生成するデータは1日当たり14Mバイトで、7日間分では「14Mバイト×7日=98Mバイト」です。一方、活動量計のメモリ容量は64Mバイトであり、使用中のメモリが一杯になったときには、データの古いものから順に新しいデータに上書きされていくので、メモリが一杯になる約4日半を経過すると、モバイル端末内のストレージに保存していないデータが順次消失していくことになります。これがシミュレーションで生じた問題となります。
模範解答では「クラウド上に」としていますが、活動量計のデータは一旦モバイル端末に保存されるため「モバイル端末内に」でも問題ないでしょう。
∴クラウド上に保存していない測定データが消失してしまう問題 - 下線④の直接的原因は、最大許容日数に対してそれを実現するためのメモリが不足していることですから、活動量計のメモリ搭載量を7日分以上に増やすことで解決できます。
なお、"測定回数を減らす"、"取得するデータを減らす"、"最大許容日数を減らす"などの変更は、クラウド上に保存されるデータや新サービスの要件が変わってしまう変更のため不適切となります。
∴活動量計本体のメモリ量を7日分以上に増やす
広告
広告