平成23年秋期試験午後問題 問11

問11 サービスマネジメント

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仮想環境の運用管理に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。
 製造業のD社では,会計,販売,生産などの業務システムを社内で運用している。
 今般,D社の情報システム部では,システムの運用負荷とコストの軽減のために,システム基盤にサーバ仮想化技術を適用することにした。仮想化ソフトを使うことで,1台の物理サーバの上で複数の仮想サーバを稼働させることが可能となる。これによって,業務サーバ8台を3台の物理サーバに統合した。
 なお,統合後の物理サーバの名称をCSV1~3とする。サーバ統合後の社内システムは図1のとおりである。
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 ハイパーバイザ型の仮想化ソフトをCSV1~3に導入した。
 統合監視サーバは,各サーバ,共有ストレージ,L2SW,L3SW,PCを集中的に監視する。サーバ統合に当たって,統合監視サーバには,CSV1~3上の仮想化ソフトや各仮想サーバを統合管理する管理ツールを追加した。
 仮想化ソフトの機能によって,仮想サーバの配置を容易に設定,変更することができる。今回のサーバ統合では,各物理サーバのシステム負荷のバランスが取れるように,これまでのCPU使用時間を参考にして,CSV1~3での業務システムと仮想サーバの配置を決めた。統合前後の業務システム一覧は,それぞれ,表1,2のとおりである。
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 また,統合前と統合後の運用管理機能の比較を行い,表3にまとめた。
pm11_3.png
 統合後のシステムリソース監視の結果から,3台の物理サーバのシステムリソースにはどれも同じ程度の余裕があることが確認できた。
 情報システム部の運用管理担当者は,統合前には,OSとハードウェアを担当する基盤担当と,業務アプリケーションを担当する業務システム担当に分かれていた。統合に当たって,①仮想環境におけるシステム構成で新たに追加された構成要素に配慮して,担当分野の見直しを行った

〔警告メッセージの発生〕
 ある日,統合監視サーバ上のエラー監視画面に,CSV3に関する警告メッセージが表示された。
 情報システム部の運用管理担当者のEさんが,統合監視サーバで稼働状況を確認したところ,CSV3のシステムリソースに,余裕がほとんどなくなっていた。原因を調べたところ,情報システム部の運用管理担当者のFさんが,独自の判断で,臨時処理業務で利用するVM8の設定値を少しずつ変えた複製環境(VM80,VM81,VM82…)を,同じ時間帯に多数起動させていたことが判明した。この臨時処理業務は,年度末処理として大量の販売データを一括処理するために,大量のシステムリソースを必要とした。また,②現行の運用規則では,今回のような臨時の仮想環境の稼働に関して必要な手続が何も定められていないことも判明した
 運用管理担当者のEさんは,これらの不具合を直ちに上司に報告し,運用管理の観点から見直すことにした。

設問1

表3の仮想環境における運用管理機能の比較において,適切な考え方を解答群の中から二つ選び,記号で答えよ。
解答群
  • 稼働監視では,CSV1~3の稼働状態とVM1~8の稼働状態は,1対1の対応関係が付くので,稼働監視の対象をCSV1~3に変更しても,統合前と同じ稼働監視内容を実施することができる。
  • システムリソース監視では,統合後の監視対象数が増えるので,統合後のシステムリソースの監視項目を減らすことが望ましい。
  • セキュリティ管理では,統合監視サーバ上に配置した,仮想化ソフトや各仮想サーバを管理する管理ツールも,セキュリティ管理の対象にする。
  • データバックアップでは,負荷分散の観点から,同一物理サーバ上に配置された仮想サーバ同士(例えば,VM2,VM3,VM4)でバックアップ処理の稼働時間帯が重複しないように,稼働時間帯を調整することが望ましい。
  • どの運用管理機能についても,統合前と統合後とでは,運用管理の対象やその内容は同じである。

解答例・解答の要点

※順不同
※順不同

解説

仮想環境の運用管理について選択肢で回答する設問です。問題文の記述と一般的なシステム管理の知識から解答を導出します。

設問文で「表3の仮想環境における運用管理機能の比較において」と指定されています。表3は統合前と統合後の運用管理について整理しているので、表3及び、表1、表2の統合前後のサーバ一覧を解答根拠とします。

各選択肢を順番にみていきます。
  • 仮想化によりサーバ統合をすると、1つの物理サーバ上で複数の仮想サーバが稼働するようになります。物理サーバが正常に稼働していても、その中の仮想サーバがダウンしてしまうことはあるので、CSV1~3の稼働状態とVM1~8の稼働状態は1対1に対応しません。つまり、CSV1~3の稼働状態を監視するだけでは不十分です。
    よって、本肢の記述は誤りです。
  • 統合前は8台のサーバが監視対象でした。しかし、統合後は3台の物理サーバ及び8台の仮想サーバが監視対象となります。監視対象数は増えますが、監視項目を減らすとリソースの枯渇を検知することが難しくなるため、安定した運用のためには従前と同じ監視項目を維持すべきです。
    よって、本肢の記述は誤りです。
  • 正しい。問題文に「統合監視サーバには,CSV1~3上の仮想化ソフトや各仮想サーバを統合管理する管理ツールを追加した」と記述があるとおり、統合に際して、新たにソフトやツールを追加しています。これらのツールやソフトもシステムに関わる部分なので、当然のことながらセキュリティ管理の対象となります。
    よって、本肢は正しい記述です。
  • 正しい。表1と表2を比較すると、統合前ではいくつかのサーバで管理していた業務について、統合後ではそれらをまとめて1台の物理サーバで管理しています。サーバ統合をすると、それまで複数のサーバで行っていた処理を1つの物理サーバで行うことになるので、サーバが高負荷になることがあります。
    D社では「今回のサーバ統合では,各物理サーバのシステム負荷のバランスが取れるように,これまでのCPU使用時間を参考にして,CSV1~3での業務システムと仮想サーバの配置を決めた」とあるように、その問題点に配慮しています。ただし、データバックアップなどのサーバに高負荷をかける処理が同時に行われると、システムリソース不足に陥ることになりかねないので、時間帯をずらして実行するように調整する必要があります。
    よって、本肢は正しい記述です。
  • 表3のシステムリソース管理の行に「物理サーバ及び仮想サーバごとに,…定期的に監視する」、セキュリティ管理の行に「左記に加えて, 仮想化ソフトの更新パッチやセキュリティパッチを定期的に適用する」と記述されているとおり、統合前後では運用管理の対象やその内容が変化することが明らかです。
    よって、本肢の記述は誤りです。
以上より、正解となる組合せは「ウ, エ」となります。

∴ウ、エ

設問2

本文中の下線①について,見直しを行う目的を30字以内で述べよ。

解答例・解答の要点

仮想サーバや仮想化ソフトの運用管理担当を明確にする (25文字)

解説

システム管理の見直しを行う目的を回答する設問です。問題文の記述と一般的なシステム管理の知識から解答を導出します。

下線①の直前に「情報システム部の運用管理担当者は,統合前には,OSとハードウェアを担当する基盤担当と,業務アプリケーションを担当する業務システム担当に分かれていた」と記述されています。このように統合前は、"OSやハードウェア"分野と"アプリケーション"分野で担当を分担していたことがわかります。しかし、今回のサーバ統合に際して「仮想化ソフト"や各仮想サーバを統合管理する管理ツール」などの構成要素が追加されています。仮想サーバや仮想化ソフトはミドルウェア的な位置づけとなるため、統合前の役割分担では、これらの構成要素がどちらを担当するのかが定かではありません。このことから、新たに追加された構成要素の担当を明確にするために、担当分野を見直しを実施する必要があったと判断できます。

∴仮想サーバや仮想化ソフトの運用管理担当を明確にする

設問3

〔警告メッセージの発生〕において,システムリソース不足の再発を防止するための技術的な対策を,解答群の中から二つ選び,記号で答えよ。
解答群
  • VM4が必要とするシステムリソースは,VM8と比べて小さいので,VM8の配置をVM4の配置と入れ替える。
  • VM8及びその複製環境の同時稼働数を制限する。
  • VM8の配置場所をCSV3からCSV1へ変更する。
  • 仮想化ソフトの機能を用いて,VM8及びその複製環境を稼働する際に使用できるシステムリソースに制限を付ける。
  • 仮想サーバを統合管理する管理ツールを,運用管理担当者が容易に利用できるようにする。

解答例・解答の要点

※順不同
※順不同

解説

システムリソース不足の再発防止策について選択肢で回答する設問です。問題文の記述と一般的なシステム管理の知識から解答を導出します。

順番に、選択肢の正誤を判断していきます。
  • システムリソースについては問題文に「統合後のシステムリソース監視の結果から,3台の物理サーバのシステムリソースにはどれも同じ程度の余裕があることが確認できた」と記述されています。この記述から、システムリソースの余裕には差がないことがわかります。このため、VM8とVM4を入れ替えただけでは、VM8の移動先であるCSV2で同じ問題が起こるのは避けられません。
    よって、本肢の記述は誤りです。
  • 正しい。〔警告メッセージの発生〕に「原因を調べたところ,…臨時処理業務で利用するVM8の設定値を少しずつ変えた複製環境(VM80,VM81,VM82…)を,同じ時間帯に多数起動させていたことが判明した」と記述されています。この記述により、今回のシステムリソース不足は多数の複製環境を同時に稼働させたことが原因であるとわかります。そのため、複製環境の同時稼働数を制限することは再発防止策になり得ると判断できます。
    よって、本肢は正しい記述です。
  • 「ア」の解説でも述べたように、VM8の場所を変えるのは再発防止施策として不適切です。本肢の対策を講じたとしても、VM8の複製環境を同じ時間帯に多数起動することで、CSV1でシステムリソース不足が発生するでしょう。
    よって、本肢の記述は誤りです。
  • 正しい。エラーの内容はシステムリソース不足なので、VM8及びその複製環境が使用できるシステムリソースに一定の制限を加えれば、リソース不足を回避することができます。
    よって、本肢は正しい記述です。
  • 仮想サーバを統合管理する管理ツールでは、通常、各仮想サーバが使用できるリソースやサーバの設定などを管理することができます。この管理ツールを運用管理担当者が容易に利用できるようにすると、運用管理担当者の独自の判断で、これらの設定値が変更されてしまい、思わぬシステム障害を発生させる可能性が高くなります。
    よって、本肢の記述は誤りです。
以上より、正解となる組合せは「イ, エ」となります。

∴イ、エ

設問4

〔警告メッセージの発生〕の下線②について,システムリソース不足の再発を防止するための管理面での対応として,必要な手続を35字以内で述べよ。

解答例・解答の要点

臨時の仮想環境の稼働には運用管理担当者の上司の承認を必須とする (31文字)

解説

管理面でのシステムリソース不足の再発防止策を回答する設問です。一般的なシステム管理の知識から解答を導出します。

設問文の条件に従い、下線②を確認すると「現行の運用規則では,今回のような臨時の仮想環境の稼働に関して必要な手続が何も定められていないことも判明した」と記述されています。
また、臨時の仮想環境の稼働については〔警告メッセージの発生〕に「情報システム部の運用管理担当者のFさんが,独自の判断で,…同じ時間帯に多数起動させていたことが判明した」と記述されています。
これらの記述から、今回のシステムリソース不足の原因は、臨時の仮想環境の稼働に関して必要な手続が定められておらず、運用管理担当者が独自の判断で実施していたことであると判断できます。

設問文で「管理面での対応として」と条件が指定されているので、この観点から再発防止策として必要な手続きを必要があります。一般的な組織管理の観点から、全体への影響がある作業を実施する際は、作業担当者独自の判断で行うのではなく、上長へ申請し、承認を得てから変更を行う業務プロセスを整備するのが望まれます。

以上をまとめると、「臨時の仮想環境の稼働をする際には上司の承認を得る作業フローとする」旨の解答が適切となります。

∴臨時の仮想環境の稼働には運用管理担当者の上司の承認を必須とする
模範解答

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