平成23年特別試験午後問題 問10
問10 プロジェクトマネジメント
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ERPパッケージの導入検討に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。
ERPパッケージの導入検討に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。
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中堅製造業のX社は,これまで国内中心に事業を拡大してきたが,今回の中期計画では,グローバルなビジネス展開と経営のスピードアップによる売上・利益の拡大を経営目標に掲げた。社長からは,直ちに全社業務改革を進め,販売・生産・会計の業務プロセスのグローバル対応とともに,現在は独立している各システムの統合を2年間で実現するよう,関係役員に検討指示が出された。この指示を受け,実現案が経営会議で審議され,業務改革委員会(以下,改革委員会という)とシステム導入プロジェクト(以下,導入PJという)が設置された。また,短期間でのシステム統合の実現策として,ERPパッケージ(以下,ERPという)を導入するという方針が決定された。現行の基幹システムは,販売システム・生産システム・会計システムから構成され,会計システムは,販売システム及び生産システムとの間でデータ連携を行っている。
〔全社業務改革の推進体制〕
経営会議の方針を受けて,図1の改革委員会と導入PJが組織され,全社推進体制確立のために,社長を責任者とするステアリングコミッティが設置された。①ステアリングコミッティは,全社業務改革の最終判断などの役割・責任を担う。
改革委員会の委員長にはZ常務,導入PJのプロジェクトリーダーには情報システム部のY部長が,それぞれ任命された。全社業務改革の推進のために,改革委員会の下,販売部門・生産部門・会計部門による業務改革チームが設置され,各チームのリーダーには,3部門の代表者が任命された。改革委員会には,メンバーとして3部門の部長と各チームのリーダーが参画する。
情報システムの開発は,導入PJが担当し,販売・生産・会計の3業務の設計・開発とインフラの計4チームが設置され,それぞれのチームに情報システム部のSEが配置された。〔ERP導入方針(案)〕
ERP導入を成功させるには,利用部門のニーズに合わせてシステムを開発してきた従来の意識を変える必要がある。この点を踏まえ,Y部長は早速,ERP導入方針(案)を(1)~(4)のとおり策定した。
〔ERPとベンダの評価・選定〕
Y部長は,WGを発足させ,検討開始に当たって選定されたメンバーにWGの重要性を説明し,2か月間の評価・選定に入った。
各部門の意見を取り入れて最終的な評価を行った結果,グローバル対応を含む各機能が充実し,優秀な専門コンサルタントがいるU社を選定した。
Y部長は,導入PJの本格的な活動開始の前に,これまでのERPとベンダの評価・選定及びERP導入計画を社長に説明し,承認を得た。
〔全社業務改革の推進体制〕
経営会議の方針を受けて,図1の改革委員会と導入PJが組織され,全社推進体制確立のために,社長を責任者とするステアリングコミッティが設置された。①ステアリングコミッティは,全社業務改革の最終判断などの役割・責任を担う。
改革委員会の委員長にはZ常務,導入PJのプロジェクトリーダーには情報システム部のY部長が,それぞれ任命された。全社業務改革の推進のために,改革委員会の下,販売部門・生産部門・会計部門による業務改革チームが設置され,各チームのリーダーには,3部門の代表者が任命された。改革委員会には,メンバーとして3部門の部長と各チームのリーダーが参画する。
情報システムの開発は,導入PJが担当し,販売・生産・会計の3業務の設計・開発とインフラの計4チームが設置され,それぞれのチームに情報システム部のSEが配置された。〔ERP導入方針(案)〕
ERP導入を成功させるには,利用部門のニーズに合わせてシステムを開発してきた従来の意識を変える必要がある。この点を踏まえ,Y部長は早速,ERP導入方針(案)を(1)~(4)のとおり策定した。
- X社と同じ業界で十分な実績のあるERP製品を導入する。当製造業の業種向けのaがあり,ERP導入の専門コンサルタントがいるベンダ2社(T社とU社)の製品及びコンサルテーション能力を比較する。ERP自体の機能改造は行わないので,各社の今後の製品強化計画も考慮する。
- 選定に際しては,全社業務改革の推進体制の各チームから選抜した,販売部門・生産部門・会計部門・情報システム部門のメンバーから構成されるERP評価ワーキンググループ(以下,WGという)を発足させる。評価の対象となる機能は,X社が使う販売・生産・会計の業務範囲に限定し,運用面などの非機能要件も併せて検討する。
- ERPの本番移行は,統合化の開発リスクを考慮し,全業務の一斉リリースでなく,2段階リリースとする。1次リリースに販売システム・生産システムを先行させ,2次リリースを会計システムとする。
- 開発は,利用部門がERPを実際に操作して評価できる,b方式で行う。
〔ERPとベンダの評価・選定〕
Y部長は,WGを発足させ,検討開始に当たって選定されたメンバーにWGの重要性を説明し,2か月間の評価・選定に入った。
- 位置付け:
- WGは,開発期間・予算の制約の下,業務プロセスのグローバル対応と経営のスピードアップに向け,候補の2社のERP製品のデモを見て説明を聞き,ベンダを選定する。
- 評価:
- 評価項目は,3部門の意見を入れて決める。
・ERP製品は,ERPの標準プロセスにX社の業務プロセスを合わせた場合の適合の難易度を,現機能だけでなく,②次期の製品強化計画を含めて評価する。
・ベンダのコンサルテーション能力は,サポートの内容・範囲と当業界に関するノウハウを評価する。
- 販売部門
海外ビジネスを本格的に立ち上げていくので,国内外の販売業務プロセスを標準化させる必要があり,関係する機能には注目している。忙しい営業担当者が自ら入力するので,操作しやすい画面を望む。 - 生産部門
生産方式は,個別受注生産方式と見込み生産方式が混在している。ERPには,両方の生産方式の基本機能が必要である。販売機能との連携,及び画面・帳票へのX社独自の管理項目の追加をしたい。 - 会計部門
会計システムには,勘定科目の全面見直し,決算業務の効率向上,全社経営活動のスピードアップ,販売システム・生産システムとの統合など,検討すべき重要テーマが山積している。これを機会に,会計システムと販売システム・生産システムとの連携機能を充実させたい。
各部門の意見を取り入れて最終的な評価を行った結果,グローバル対応を含む各機能が充実し,優秀な専門コンサルタントがいるU社を選定した。
Y部長は,導入PJの本格的な活動開始の前に,これまでのERPとベンダの評価・選定及びERP導入計画を社長に説明し,承認を得た。
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設問1
本文中のa,bに入れる最も適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。
a,b に関する解答群
- ウォーターフォール
- コンセプト
- スパイラル
- テンプレート
- ビジネスモデル
- プロトタイプ
解答例・解答の要点
a:エ
b:カ
b:カ
解説
ERP(Enterprise Resource Plannning)パッケージとは、企業活動に必要な機能、販売、生産、購買、出荷、会計などのすべてが含まれた情報システムです。導入することによって企業内に散在するデータの一元管理を可能にしたり、全社的な業務の統合化を推進することができるメリットがあります。ERP導入を成功させるには、利用部門のニーズに合わせてシステムを開発してきた従来の意識を変え、システムに業務を合わせるのが原則です。ERP導入方針(案)では、従来のカスタマイズ開発とERP導入との相違点から答えを導きます。
〔aについて〕
ERPは、利用者に合わせて非常に多くの設定項目をカスタマイズできる特徴があります。一から全部を設定することも可能なのですが、多くのERP製品には、業種や業態ごとに基本となる設定や必要なカスタマイズをまとめた「ひな型」があらかじめ用意されていて、これをベースに利用者に導入提案を行っています。この業種・業態ごとにあらかじめ用意されたひな形のことを「テンプレート」といいます。テンプレートはERPの導入を容易にし、開発期間短縮や導入コスト削減を図るために重要な意味を持ちます。
∴a=エ:テンプレート
〔bについて〕
問題文には[b]の開発方式の特徴として「利用部門がERPを実際に操作して評価できる」ことと記述されています。
システム開発の早い段階で、利用者が目に見える形で要求を確認できるような試作品を作成し、実際に動かしながら詳細の仕様を決めていく開発手法をプロトタイプモデル(プロトタイピングともいう)と言います。よって、「カ」の「プロトタイプ」が適切となります。
一般的なソフトウェア開発では、システムテストや運用テストなど、完成に近い状態にならないと機能や性能を評価することはできませんが、ERPの場合、あらかじめ出来上がっているシステムを導入することになるので、テンプレート等を利用することにより早期に実機での動作確認が可能となります。このためプロトタイプ開発に馴染みやすいと言えます。
∴b=カ:プロトタイプ
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設問2
本文中の下線①について,ステアリングコミッティは,全社業務改革の最終判断のほかに,どのような役割・責任を担うのか。図1の全社業務改革の推進体制を参考に,30字以内で述べよ。
解答例・解答の要点
改革委員会と導入PJにまたがる問題を調整する (22文字)
解説
ステアリングコミッティは、関係者の代表で構成された委員会組織で、プロジェクト全体を見通し、全体最適化の観点から利害調整や意思決定を行うことを責務とします。改革委員会(ERPの利用部門側)の目的は、販売・生産・会計の業務プロセスのグローバル化を推し進めることですので、そのためのシステム変更要望が多く出されることが予想されます。一方、導入プロジェクトの目的はシステム統合を2年以内に実現することなので、全部の変更依頼に応じることはできません。逆に、情報システムの観点から必要な変更が業務改革に支障を及ぼす可能性もあります。つまり、改革委員会と導入PJで異なる要望や評価が発生する可能性があります。
図1の体制図を見ると、ステアリングコミッティは改革委員会および導入PJと繋がりを持ち上位に位置する組織です。改革委員会と導入PJの間で利害が対立する問題、両者の協調して解決に当たる課題については、ステアリングコミッティが改革委員会と導入PJを連携させるための調整役を務める必要があります。
∴改革委員会と導入PJにまたがる問題を調整する
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設問3
今回,2段階リリースを採用した。一斉リリースの場合には必要としないシステム機能であって,開発が必須となるものを35字以内で述べよ。
解答例・解答の要点
販売システム及び生産システムと現行の会計システムの連携 (27文字)
解説
2段階リリースの手順は「1次リリースに販売システム・生産システムを先行させ,2次リリースを会計システム」と説明されています。リリースの各時点ごとのシステム構成を整理すると、以下のようになります。- 1次リリース後
- ERP(販売・生産)+現行会計システム
- 2次リリース後
- ERP(販売・生産・会計)
∴販売システム及び生産システムと現行の会計システムの連携
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設問4
WGが行うERPとベンダの評価・選定について,(1),(2)に答えよ。
- WGが行う評価としてふさわしいものを解答群の中からすべて選び,記号で答えよ。
- 本文中の下線②について,次期の製品強化計画を含めて評価するのはなぜか。その理由を20字以内で述べよ。
解答群
- ERPの性能評価は重要であるが,将来のデータ量が正確に把握しきれないので,今回は検討項目から外す。
- 将来導入する可能性があるERPの人事機能を評価する。
- 販売システムについては,業務改革でERPの標準プロセスに合わせるので,今回は画面・帳票を中心に評価する。
- 生産システムについては,個別受注と見込みの生産方式の基本機能,販売機能との連携,及び画面・帳票への管理項目の追加の容易性を評価する。
- 会計システムについては,決算業務の効率向上,全社経営活動のスピードアップ,販売システム・生産システムとの統合度合いを評価する。
解答例・解答の要点
- エ,オ
- ERP自体の機能改善は行わないから (17文字)
解説
- ERPとベンダの評価・選定の方法について、ふさわしいものを全て選択します。社長の承認を得た〔ERPの導入方針〕に合致した評価を行っているかどうか、また「評価項目は3部門の意見をいれて決める」としている評価基準に合致しているかを見ることになります。
- 〔ERPの導入方針〕(2)に「運用面などの非機能要件も併せて検討する」と記述されているので、性能評価も行う必要があります。現行システムで行っていた業務が新システムでも同程度に実施できるのかは重要な評価事項です(業務継続性の担保)。
- 〔ERPの導入方針〕(2)に「評価の対象となる機能は,X社が使う販売・生産・会計の業務範囲に限定し…」と記述されているので、人事機能を評価対象に含めることは不適切です。
- 〔ERPとベンダの評価・選定〕に「ERPの標準プロセスにX社の業務プロセスを合わせた場合の適合の難易度を…評価する」とあります。ERPの導入ではフィット&ギャップ分析が欠かせませんので、画面・帳票を評価の中心にして、適合難易度の評価を疎かにすることはできません。
- 正しい。生産部門の要望すべてを反映した評価基準なので適切です。
- 正しい。会計部門の要望すべてを反映した評価基準なので適切です。
- 〔ERPの導入方針〕(1)には「ERP自体の機能改造は行わないので,各社の今後の製品強化計画も考慮する」と記述されています。これをそのまま「次期の製品強化計画を含めて評価する」理由とすれば、「ERP自体の機能改善は行わないから」となります。
ERPでは業務プロセスをシステムに合わせるのが原則ですが、業務プロセスを変更できない部分については、システムを業務プロセスに合わせるためアドオンを開発することになります。アドオンはERPベンダの保証対象外となり、ERP製品のアップデートによって使えなくなったり不具合が生じたりする可能性があるので、ERPを導入しても安易に都度アップデートすることが難しくなり、現状維持を選択せざるを得ない状態になってしまうことがあります。逆に独自の機能改善を行わず標準機能のまま導入すれば、ERP製品が強化(アップデート)された際に、その機能改善の効果をスムーズに享受することができます。X社のシステム統合は約2年後ですので、その時期に実現されている機能も含めて評価することが適切と言えます。
∴ERP自体の機能改善は行わないから
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