平成31年春期試験午後問題 問2
問2 経営戦略
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ホテルチェーンのビジネスコンセプトに関する次の記述を読んで,設問1~5に答えよ。
ホテルチェーンのビジネスコンセプトに関する次の記述を読んで,設問1~5に答えよ。
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D社は,国内でビジネスホテルチェーンを展開している業界大手企業である。D社が運営するホテルのビジネスコンセプトは,次のとおりである。
〔D社のファイブフォース分析と課題〕
チームリーダーに任命された経営企画部X部長は,自社の特徴,課題,及び収益構造を把握するために,ファイブフォース分析を行い,ホテル業界におけるD社が受ける脅威を表1に整理した。 ホテル業界では,新規開業時に掛かる多額の初期投資を,確実に回収することが課題である。代替サービスの脅威及び顧客の交渉力の脅威に対しては,低価格なだけではなく,付加価値の高いサービスを提供することが課題である。供給業者の交渉力の脅威は,現在の仕入価格交渉力を維持できれば大きな問題はない。
X部長は,これらの課題を踏まえて,初期投資と運営コストを抑えた新しい形態のホテル事業の検討に着手した。
〔企業が所有している保護所の実態〕
新しい形態のホテル事業を検討している中,X部長は,D社の大口顧客の企業経営者から,多くの企業が自社の保養所運営で問題を抱えていることを耳にした。企業の保養所は,従業員福利厚生制度の一環として設けられてきた。従業員とその家族などが,年間を通じて1泊2食付きで3,4千円台で利用できるので,かつての利用実績は高かった。しかし,近年,①余暇に関する個人の価値観の変化,及び海外旅行が手軽になったことから,利用者数は大きく減少し,企業の重荷になっている。
温泉地で有名なC市では,半径1km以内の近隣エリアに十数社の保養所が点在している。築年数を経た品の良いたたずまいの建物,30年ほど前の好況期に建てられた高級感のある建物など,それぞれに独自の魅力がある。一方で,隣接する昔ながらの商店街では,地元の名産品を提供する飲食店,土産物屋が細々と営業している。
〔保養所を活用した観光ホテル事業の提案〕
D社にとって,新たな形態のホテル事業として観光ホテル事業に進出する場合は新規の参入となり,②その参入障壁を越えなければならない。また,大口顧客の企業経営者の話から,観光地に保養所を所有する企業(以下,所有企業という)は,長年黙認してきた保養所の運営コストを削減したいと考えていることが分かった。
X部長は,所有企業と提携し,保養所を活用した観光ホテル事業を考えた。また,地元の役所,観光組合,商店街と協業して地域を活性化することで,ホテルの集客力を高めようと考えた。事業戦略立案チームは,X部長の考えを具体的に進めるために,C市に立地している保養所の現在の運営コストを分析して観光ホテル事業の収支を試算し,所有企業に対して次の提案をした。
D社の提案は,最終的にC市に保養所を所有する企業8社に受け入れられた。その後,D社は,地域の活性化に向けて,地元の役所,観光組合,商店街との話合いを開始した。
〔観光ホテル事業のビジネスコンセプト〕
X部長は,観光ホテル事業のビジネスコンセプトを,次のとおり整理した。
飲食は観光地のアピールポイントの一つであるが,D社が受ける脅威の一つである代替サービスとはあえて争わない。ホテル内で調理して提供するのは朝食だけにして,宿泊客に商店街の飲食店の食事券と土産物屋の割引券を渡し,夕食時には地元の商店街へ足を運んでもらう。④これには,D社の飲食関連コストの上昇を抑制すること以外の狙いもある。
X部長は,保養所資産の有効活用と徹底的なコスト削減,及び高い客室稼働率・リピート率の確保によって,2年間で観光ホテル事業を黒字にすることを目標にした。
〔複数の保養所を一体化した運営の課題と施策の検討〕
複数の保養所を一体化して運営する上での課題は,顧客に対するサービスの品質を低下させないことと,人件費全体の縮小である。支配人,部門長などの管理職は自社の既存ホテルから配置できるが,宿泊客の増加が予想されるのでスタッフ職従業員(以下,スタッフという)が不足する。そこで急務となる新たなスタッフの確保と教育に対して,X部長は次の施策を考えた。
- 都市のターミナル駅の徒歩圏内に,150~200部屋の中規模ホテルを展開する。
- ターゲット顧客は,低価格志向の出張客及び観光客とする。
- ホテルの1階に直営レストランを併設する。
- ITを活用したサービス向上と,低コスト運営を目指す。
〔D社のファイブフォース分析と課題〕
チームリーダーに任命された経営企画部X部長は,自社の特徴,課題,及び収益構造を把握するために,ファイブフォース分析を行い,ホテル業界におけるD社が受ける脅威を表1に整理した。 ホテル業界では,新規開業時に掛かる多額の初期投資を,確実に回収することが課題である。代替サービスの脅威及び顧客の交渉力の脅威に対しては,低価格なだけではなく,付加価値の高いサービスを提供することが課題である。供給業者の交渉力の脅威は,現在の仕入価格交渉力を維持できれば大きな問題はない。
X部長は,これらの課題を踏まえて,初期投資と運営コストを抑えた新しい形態のホテル事業の検討に着手した。
〔企業が所有している保護所の実態〕
新しい形態のホテル事業を検討している中,X部長は,D社の大口顧客の企業経営者から,多くの企業が自社の保養所運営で問題を抱えていることを耳にした。企業の保養所は,従業員福利厚生制度の一環として設けられてきた。従業員とその家族などが,年間を通じて1泊2食付きで3,4千円台で利用できるので,かつての利用実績は高かった。しかし,近年,①余暇に関する個人の価値観の変化,及び海外旅行が手軽になったことから,利用者数は大きく減少し,企業の重荷になっている。
温泉地で有名なC市では,半径1km以内の近隣エリアに十数社の保養所が点在している。築年数を経た品の良いたたずまいの建物,30年ほど前の好況期に建てられた高級感のある建物など,それぞれに独自の魅力がある。一方で,隣接する昔ながらの商店街では,地元の名産品を提供する飲食店,土産物屋が細々と営業している。
〔保養所を活用した観光ホテル事業の提案〕
D社にとって,新たな形態のホテル事業として観光ホテル事業に進出する場合は新規の参入となり,②その参入障壁を越えなければならない。また,大口顧客の企業経営者の話から,観光地に保養所を所有する企業(以下,所有企業という)は,長年黙認してきた保養所の運営コストを削減したいと考えていることが分かった。
X部長は,所有企業と提携し,保養所を活用した観光ホテル事業を考えた。また,地元の役所,観光組合,商店街と協業して地域を活性化することで,ホテルの集客力を高めようと考えた。事業戦略立案チームは,X部長の考えを具体的に進めるために,C市に立地している保養所の現在の運営コストを分析して観光ホテル事業の収支を試算し,所有企業に対して次の提案をした。
- D社は,所有企業から土地と建物を借り,保養所の経営及び運営全般を受託する。
- D社は,施設修繕費などのランニングコストを全額負担する。
- D社は,各保養所での売上の一定料率を,賃借料として各所有企業に還元する。
- 観光ホテルとして,所有企業の従業員などのほかに一般宿泊客も受け付ける。
- 所有企業の従業員は,現行の保養所の料金のまま一般宿泊客よりも優先的に予約できる。さらに,他社の魅力的な保養所も他社の保養所の料金で利用でき,楽しみが増える。
D社の提案は,最終的にC市に保養所を所有する企業8社に受け入れられた。その後,D社は,地域の活性化に向けて,地元の役所,観光組合,商店街との話合いを開始した。
〔観光ホテル事業のビジネスコンセプト〕
X部長は,観光ホテル事業のビジネスコンセプトを,次のとおり整理した。
- 近隣エリアの複数の保養所を一つのホテル組織として一体化し,運営する。
- 一般宿泊客は,1泊2食付きで9,000円の年間均一料金とする。
- D社の既存のビジネスホテルチェーンで使用している宿泊予約システムを一部機能追加しての導入,各部屋へのタブレット端末設置など,ITを活用した使い勝手の良いサービスを提供する。
飲食は観光地のアピールポイントの一つであるが,D社が受ける脅威の一つである代替サービスとはあえて争わない。ホテル内で調理して提供するのは朝食だけにして,宿泊客に商店街の飲食店の食事券と土産物屋の割引券を渡し,夕食時には地元の商店街へ足を運んでもらう。④これには,D社の飲食関連コストの上昇を抑制すること以外の狙いもある。
X部長は,保養所資産の有効活用と徹底的なコスト削減,及び高い客室稼働率・リピート率の確保によって,2年間で観光ホテル事業を黒字にすることを目標にした。
〔複数の保養所を一体化した運営の課題と施策の検討〕
複数の保養所を一体化して運営する上での課題は,顧客に対するサービスの品質を低下させないことと,人件費全体の縮小である。支配人,部門長などの管理職は自社の既存ホテルから配置できるが,宿泊客の増加が予想されるのでスタッフ職従業員(以下,スタッフという)が不足する。そこで急務となる新たなスタッフの確保と教育に対して,X部長は次の施策を考えた。
- スタッフの募集を地元の役所に支援してもらう。
- スタッフ業務の経験がなくても短期間で就労できるように,業務を標準化するとともに,スタッフ向け研修を整備する。
- スタッフ業務遂行基準を作成する。各自が管理職と話し合って設定した目標値を達成したスタッフに対する厚遇制度を設けて,スタッフのモチベーションを上げる。
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設問1
〔D社のファイブフォース分析と課題〕について,(1),(2)に答えよ。
- 表1中のイ~オのうち,業界外の要因に分類される脅威を二つ選び,記号で答えよ。
- 表1中のa,bに入れる適切な字句を,10字以内で答えよ。
解答例・解答の要点
- イ ※順不同
ウ ※順不同
- a:競合他社 (4文字)
b:低価格 (3文字)
解説
ファイブフォース分析は、業界の収益性を決める次の5つの競争要因から、業界の構造分析をおこなう手法のことです。- 売り手の交渉力(本問ではオ:供給業者の交渉力の脅威)
- 買い手の交渉力(本問ではエ:顧客の交渉力の脅威)
- 既存企業間の競争関係(本問ではア:業界内の[競合他社]の脅威 )
- 新規参入者の脅威(本問ではイ: 新規参入の脅威)
- 代替品の脅威(本問ではウ:代替サービスの脅威)
- ファイブフォース分析では、「新規参入者の脅威」及び「代替品の脅威」が業界外要員に分類されます。よって表1中の"イ"及び"ウ"が正解となります。
また、表1の脅威に対する分析結果を分析することで、業界外の脅威に該当するものを導けます。表1中の"イ"は新規参入の脅威ですので、現段階では業界外からくる脅威であるとわかります。"ウ"は代替サービスの脅威ですので、今現在提供されているサービスに代わる業界外のものと解釈できます。"エ"は顧客の交渉力の脅威、すなわち買い手の交渉力を指しており、現段階での顧客そのものを指しています。よって業界内の脅威です。"オ"は供給業者の交渉力の脅威であり、売り手の交渉力を指しています。こちらも現段階での取引相手ですので、業界内の脅威であると言えます。
∴イ、ウ - 〔aについて〕
脅威に対する分析結果を読むと、"ア"は5つの要因のうち「既存企業間の競争関係」を指していることがわかります。同じ業界で顧客を奪い合う相手となるのは「競合他社」です。
∴a=競合他社
〔bについて〕
脅威に対する分析結果を読むと、"ウ"は5つの要因のうち「代替品の脅威」を指していることがわかります。つまり、bは現在D社が提供するサービスに置き換わるものです。
本文より「代替サービスの脅威及び顧客の交渉力の脅威に対しては,低価格なだけではなく,付加価値の高いサービスを提供することが課題である」とあることから、D社と同程度のサービス品質でより低価格な宿泊・飲食サービス、またはD社と同じ価格帯で高付加価値の宿泊・飲食サービスが登場した場合に、D社サービスに対する需要が脅かされる懸念があるとわかります。「脅威に対する分析結果」では、「b又は高付加価値」とあることから、bには低価格が入ります。
∴b=低価格
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設問2
保養所の利用者数が減少した理由である本文中の下線①は,ファイブフォース分析のどの脅威に該当するか。表1中のイ~オで答えよ。
解答例・解答の要点
ウ
解説
下線①には「余暇に関する個人の価値観の変化,及び海外旅行が手軽になったこと」とあり、既存の保養所への宿泊から海外旅行に置き換わることや、余暇の過ごし方が変化したことが指摘されています。つまり、価値観の多様化や社会の変化によって減った利用者は別のサービスに移ったということです。表1から、これらに合致する内容を考えると、「代替サービスの脅威」が当てはまります。よって「ウ」が正解です。∴ウ
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設問3
本文中の下線②について,観光ホテル事業においては新規参入の立場であるD社が,所有企業と提携することによって可能になった,参入障壁を越えるための対策を,25字以内で述べよ。
解答例・解答の要点
開業時の初期投資を賃借料で代替する (17文字)
解説
ホテル業界における新規参入の障壁は、表1より「土地や建物の取得に多額の初期投資を要すること」及び「ホテル運営のノウハウを必要とすること」です。D社では、これまでにビジネスホテルチェーンを展開しており、ホテル運営のノウハウがあります。このため障壁の2つ目については問題になりません。D社が越えなければならない障壁は「新規開業時に掛かる多額の初期投資」ですので、これを解決する対策を答えることになります。D社の事業提案では、所有企業から土地と建物を借り、運営全般を受託すると同時に売上の一定割合を賃借料として所有企業に支払うとしています。既存の土地建物を賃貸借すれば、ホテル業界の新規参入障壁となっている土地建物に対する初期投資を大幅に低減できます。D社はこの対策によって、参入障壁を越えることを提案しています。
参入障壁を越えるための対策としては、「賃借契約にすることで新規開業時の初期投資額を抑える」旨の記述が適切となります。
∴開業時の初期投資を賃借料で代替する
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設問4
〔観光ホテル事業のビジネスコンセプト〕について,(1)~(3)に答えよ。
解答群
- 一般宿泊客の顧客満足度の向上
- 飲食に関する新規参入の脅威の削減
- 効率の良い観光ホテル運営
- 自然災害発生による被害リスクの分散
解答例・解答の要点
- 他社の魅力的な保養所も利用できる楽しみ (19文字)
- 地域を活性化することで,ホテルの集客力を高めること (25文字)
- ウ
解説
- 本文中では「近隣エリアの複数の保養所を一つのホテル組織として一体化し,運営する」とあることから、複数企業の保養所を各企業の従業員が自由に選択できるということになります。これにより所属企業の従業員が享受する価値として次のものが挙げられています。
- 現行の保養所の料金のまま利用できる
- 一般宿泊客よりも優先的に予約できる
- 他社の魅力的な保養所を利用可能になる
- 他社の保養所も他社の保養所の価格(通常料金よりも低価格)で利用できる
- 他社の魅力的な保養所を利用できる楽しみが増える
∴他社の魅力的な保養所も利用できる楽しみ - 本文中に「D社が受ける脅威の一つである代替サービスとはあえて争わない」とあります。ここでいう代替サービスの脅威とは、「隣接する昔ながらの商店街では,地元の名産品を提供する飲食店,土産物屋が細々と営業している」とあるように、周辺地域の商店街を指していると考えられます。
D社の計画では、宿泊客に割引券を渡して地元の商店街に足を運んでもらうことを考えており、周辺地域の商店街と共存共栄することをコンセプトにしていることが読み取れます。本文中にも「地元の役所,観光組合,商店街と協業して地域を活性化することで,ホテルの集客を高めようと考えた」とあるように、地域の活性化を先導することで当該地域への観光客数を増加させ、その結果ホテルの集客力を高めることを狙いとしています。また、地元との協業によるシナジー効果が発揮され、ホテルへのさらなる集客が見込めるものと考えられます。
∴地域を活性化することで,ホテルの集客力を高めること - 近隣エリアにホテルチェーンを展開するメリットを考えます。特定のエリアに集中的に出店するドミナント戦略を参考に考えると、ホテル同士が近ければ仕入れや配送などの物流コストが低くなったり、管理者が各ホテルを巡回する時間を短縮できたりするメリットがあります。また、本文中の最後に記載されている通り、ホテル同士で人員の融通が効くようになります。つまり、運営コストを抑えた効率的なホテル運営が可能となります。
よって、狙いは「ウ」の「効率の良い観光ホテル運営」となります。- 近隣エリアに複数出店すると顧客認知度は向上しますが、顧客満足度は無関係です。
- 飲食については代替サービスとは争わない方針なので、新規参入の脅威を削減する必要はありません。
- 正しい。
- 特定のエリアに集中して出店すると自然災害リスクは高くなります。
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設問5
本文中の下線⑤について,スタッフの配置をどのようにしたらよいか。30字以内で述べよ。
解答例・解答の要点
保養所全体でスタッフを最適配置する (17文字)
解説
当初の「スタッフは各保養所に固定で配置する計画」から、「スタッフの稼働予定及び実績を管理するスタッフ稼働管理システムを導入し,保養所ごと,時間帯ごとにスタッフの繁閑具合を可視化する」ことへ変更しています。その目的は人件費全体の縮小です。後者の施策によって、手隙の保養所は人を減らし、忙しい保養所は人数を増やすといったように、宿泊者数などの状況に合わせて人員数をコントロールすることが可能になります。予約状況に応じて近隣エリアの保養所同士で人員を融通し合うことで、顧客に対するサービスの品質を保ちつつ保養所全体として人的コストを最適化することが可能となります。
本問は「スタッフの配置をどうしたらよいか」と問うていますので、「繁閑の状況を踏まえて各保養所の人員数を最適化する」旨の記述が適切となります。
∴保養所全体でスタッフを最適配置する
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