平成31年春期試験午後問題 問10
問10 サービスマネジメント
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サービス運用のアウトソーシングに関する次の記述を読んで,設問1~5に答えよ。
サービス運用のアウトソーシングに関する次の記述を読んで,設問1~5に答えよ。
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A社は,生活雑貨を製造・販売する中堅企業で,首都圏に本社があり,全国に支社と工場がある。A社では,10年前に販売管理業務及び在庫管理業務を支援する基幹システムを構築した。現在,基幹システムは毎日8:00~22:00にA社販売部門向けの基幹サービスとしてオンライン処理を行っている。基幹システムで使用するアプリケーションソフトウェア(以下,業務アプリという)はA社IT部門が開発・運用・保守し,IT部門が管理するサーバで稼働している。
〔基幹サービスの概要〕
A社IT部門とA社販売部門との間で合意している基幹サービスのSLA(以下,社内SLAという)の抜粋を,表1に示す。〔インシデント処理手順の概要〕
A社IT部門では,インシデントが発生した場合は,インシデント担当者を選任してインシデントを管理し,インシデント処理手順に基づいてサービスレベルを回復させる。インシデント処理手順を表2に示す。〔アウトソーシングの検討〕
現在,社内に設置されている基幹システムのサーバは,運用・保守の費用が増加し,管理業務も煩雑になってきた。また,A社の事業拡大に伴い,新規のシステム開発案件が増加する傾向にある。そこで,A社IT部門がシステムの企画と開発に集中できるように,基幹システムをB社提供のPaaSに移行する検討を行った。検討結果は次のとおりである。
〔A社とB社のSLA)
A社IT部門は,B社へのアウトソース開始後も,A社販売部門に対して,社内SLAに基づいて基幹サービスを提供する。そこで,A社IT部門は,社内SLAを支え,整合を図るため,A社とB社間のサービスレベル項目と目標値については,表1に基づいてB社と協議を行い,合意することにした。また,B社へのアウトソーシング開始後,A社とB社との間で月次で会議を開催し,サービスレベル項目の目標値達成状況を確認することにした。
A社とB社のSLAは,B社からの要請で次の二つを追加して,合意することにした。
その後,A社とB社はSLA契約を締結し,A社IT部門の業務の一部がB社にアウトソースされた。
〔新商品の販売開始〕
アウトソースが開始されて半年が経過した時点で,A社は,2か月後に新商品の販売を控え,A社の販売部門とIT部門で次のことが確認された。
〔基幹サービスの概要〕
A社IT部門とA社販売部門との間で合意している基幹サービスのSLA(以下,社内SLAという)の抜粋を,表1に示す。〔インシデント処理手順の概要〕
A社IT部門では,インシデントが発生した場合は,インシデント担当者を選任してインシデントを管理し,インシデント処理手順に基づいてサービスレベルを回復させる。インシデント処理手順を表2に示す。〔アウトソーシングの検討〕
現在,社内に設置されている基幹システムのサーバは,運用・保守の費用が増加し,管理業務も煩雑になってきた。また,A社の事業拡大に伴い,新規のシステム開発案件が増加する傾向にある。そこで,A社IT部門がシステムの企画と開発に集中できるように,基幹システムをB社提供のPaaSに移行する検討を行った。検討結果は次のとおりである。
- 当該PaaSはB社の運用センタで稼働するサービスである。B社にサービス運用をアウトソースする場合は,A社IT部門が行っているサーバの運用・保守と管理業務はB社に移管され,B社からA社IT部門に対して運用代行サービスとして提供される。
- 業務アプリ保守及びインシデント管理などのサービスマネジメント業務は,引き続きA社IT部門が担当する。
- 表2の手順"記録"における,B社の役割として,dを行うこととする。
- 表2の手順"優先度の割当て"における優先度の割当ては,A社IT部門が行い,割当て結果をeに伝える。
〔A社とB社のSLA)
A社IT部門は,B社へのアウトソース開始後も,A社販売部門に対して,社内SLAに基づいて基幹サービスを提供する。そこで,A社IT部門は,社内SLAを支え,整合を図るため,A社とB社間のサービスレベル項目と目標値については,表1に基づいてB社と協議を行い,合意することにした。また,B社へのアウトソーシング開始後,A社とB社との間で月次で会議を開催し,サービスレベル項目の目標値達成状況を確認することにした。
A社とB社のSLAは,B社からの要請で次の二つを追加して,合意することにした。
- ①サービスレベル項目として,B社が保守を行うための計画停止予定通知日を追加する。B社はPaaSの安定運用の必要性から,PaaSのサービス停止を伴う変更作業を行う。その場合,事前に計画停止の予定通知を行うこととする。計画停止予定通知日の目標値は,A社IT部門と販売部門の合意に要する時間を考慮して,B社からA社への通知日を計画停止実施予定日の7日前までとし,必要に応じてA社とB社で協議の上,計画停止時間を確定させる。
- サービスレベル項目のうち,B社の責任ではA社と合意するB社の目標値を遵守できない項目があるので,②A社とB社のSLAの対象から除外するインシデントを決める。
その後,A社とB社はSLA契約を締結し,A社IT部門の業務の一部がB社にアウトソースされた。
〔新商品の販売開始〕
アウトソースが開始されて半年が経過した時点で,A社は,2か月後に新商品の販売を控え,A社の販売部門とIT部門で次のことが確認された。
- 新商品の販売開始後,販売量の大幅な増加が予測されている。
- 販売量の大幅な増加に伴って,基幹システムが扱うデータ量も大幅に増加する。
- 新商品の販売開始後も,社内SLAの目標値を達成する。
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設問1
表1中のa,bに入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。
a,b に関する解答群
- 安全性
- 解決時間
- 可用性
- 機密性
- 平均故障間動作時間
- 平均修復時間
- 保守性
解答例・解答の要点
a:ウ
b:イ
b:イ
解説
〔aについて〕SLAとはサービスを提供する側と利用する側でサービスレベルについて合意をし、サービスを提供していくうえで守られるべき指標のことです。
表1でaの行のサービスレベル項目を見ると、サービス提供時間帯およびサービス稼働率が記載されています。サービス提供時間帯とは「サービスがいつ使えるのか」、サービス稼働率とは「定められた提供時間内の何割実際に使えるのか」をSLAとして記載しているものになります。これらはどちらも可用性の指標として用いられます。よって解答は「ウ」の可用性になります。
∴a=ウ:可用性
〔bについて〕
表1から信頼性に関わる内容だとわかります。JIS Z 25010:2013によれば、信頼性とは「明示された時間帯で,明示された条件下に,システム,製品又は構成要素が明示された機能を実行する度合い」であり、成熟性・障害許容性・回復性などの副特性を含みます。この信頼性の目標値として2時間以内という制限時間が定められていることに注目します。
表2の注記を読むと、「インシデントを受け付けてから最終的なインシデントの解決をA社販売部門に連絡するまでの経過時間(…)の目標値が定められている。経過時間の目標値は,優先度"重大"が2時間,…」とあります。この記述から、"重大インシデント"と"2時間以内"の関係がインシデント発生から解決までの目標時間という点で結び付きます。よってbに当てはまるのは「イ」の解決時間になります。
∴b=イ:解決時間
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設問2
表2中のcに入れる適切な字句を10字以内で答えよ。
解答例・解答の要点
c:段階的取扱い (6文字)
解説
インシデントの早期解決のために、インシデントを受け付けた1次グループが、より対処能力に優れた専門的な部門や権限を持つ上位組織(2次グループ)などにインシデントの解決を依頼することが多くあります。そのことを「エスカレーション」や「段階的取扱い」と言います。IPAの開示する解答では段階的取扱いとなっています。また、表2中に「専門知識をもったA社IT部門の技術者などに…」とありますので、機能的エスカレーションが思い浮かぶかもしれませんが、文字数制限である10文字を超えてしまいますので誤答です。
∴c=段階的取扱い
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設問3
本文中のd,eに入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。
d,e に関する解答群
- A社IT部門
- A社IT部門への連絡
- A社販売部門
- A社販売部門への連絡
- B社
- B社への連絡
- 運用手順の確認
- 定期保守報告の確認
解答例・解答の要点
d:イ
e:オ
e:オ
解説
〔dについて〕「B社の役割としてdを行うこととする」という文脈から、dにはB社の行動が当てはまります。そのため、B社の行動に当てはまらない「ア、ウ、オ、カ」は、候補から外れます。また、「表2の手順"記録"における…」とあります。表2はインシデント処理手順なので、インシデントの処理に関係のない「キ、ク」も候補から外れます。すると残るのは「A社IT部門への連絡」及び「A社販売部門への連絡」のみです。
アウトソース開始後はサーバの運用・保守をB社が行うことになります。業務アプリ保守及びインシデント管理などのサービスマネジメント業務は、引き続きA社IT部門が担当しますが、運用・保守の対象外となるサーバのインシデントには気付くことができません。インシデント管理等をA社IT部門で行う以上、PaaS環境のインシデントを把握できる体制を整備しなければなりません。よって、B社には、PaaS環境のインシデントをA社IT部門に連絡する役割を依頼することになります。B社から連絡を受けたA社IT部門は、"記録"の手順として当該インシデントをインシデント管理簿に記録し、その後優先度の割当てを行います。
∴d=イ:A社IT部門への連絡
〔eについて〕
空欄にはA社IT部門が決定した優先度を伝える先が入ります。
基幹システムのサーバの運用・保守・管理業務はB社に移管されているため、実際にインシデントの解決に当たるのはB社になります。優先度の割当て結果によってインシデント解決時間の目標値が変わってくるので、B社に優先度の割当て結果を伝える必要があります。さらに優先度が"重大"の場合はSLAにも関わってきます。
なお、サービス利用者であるA社販売部門には、表2「インシデント処理手順」の"解決"によって解決後に報告することになっています。このためインシデントの解決前にA社販売部門に優先度の割当て結果を伝えるというのは不適切です。A社販売部門は利用者ですのでサービスが利用できるか否かが重要であって、インシデント解決までの目標時間を知る必要はありません。
∴e=オ:B社
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設問4
〔A社とB社のSLA)について,(1),(2)に答えよ。
解答例・解答の要点
- サービス可用性を維持して変更作業を行う必要があるから (26文字)
- 業務アプリに起因するインシデント (16文字)
解説
- 本文中に「B社は…PaaSのサービス停止を伴う変更作業を行う」とあります。
B社の保守作業はサービス停止を伴うため、変更作業を行っている間はA社販売部門が基幹システムを使えなくなってしまいます。表1「社内SLA」では、B社の保守時間は計画停止時間に含まれていないため、そのままでは可用性の目標値を達成できなくなります。アウトソース開始後は、B社でも保守を行う必要があるので、SLAサービス稼働率を維持するためには、B社の保守時間も計画停止時間として考慮する必要があります。
SLAにB社の計画停止予定通知日を追加したのは、SLAに定めている可用性のサービスレベルを遵守しつつ、B社が変更作業を行えるようにするためであると言えます。
∴サービス可用性を維持して変更作業を行う必要があるから - 本文中に「B社の責任ではA社と合意するB社の目標値を遵守できない項目」とあります。B社で責任を持てないということですから、B社が担当していない業務は何かを探します。
〔アウトソーシングの検討〕を読むと、業務アプリ保守およびインシデント管理は引き続きA社IT部門が担当するとあり、B社が担当していない業務に該当します。業務アプリに起因するインシデントはB社の責任ではないため、A社とB社のSLAから除外する対象となります。
なお、自然災害等に起因するインシデントもB社で責任を負えない項目となりますが、表1の注記1に「天災,法改正への対応などの不可抗力に起因するインシデントは,…対象から除外する」とあるため、この2つは誤答となります。
∴業務アプリに起因するインシデント
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設問5
〔新商品の販売開始〕について,本文中の下線③で行う活動内容を35字以内で述べよ。
解答例・解答の要点
販売部門の販売量予測に基づきリソースの要求量をまとめる (27文字)
解説
増強要求提出のために必要な活動を具体的に答える必要があります。新商品の販売によって、基幹システムが扱うデータ量も大幅に増加する、つまりリソースが圧迫されることを予測できます。それによってオンライン応答時間などが遅れる可能性があります。
社内SLA(A社IT部門とA社販売部門間のSLA)にはオンライン応答時間も定められており、新商品販売後も引き続き目標値を達成する必要があります。キャパシティ管理に関わる必要な活動として、リソースの増強を適切に(過不足なく)行う必要があります。販売量の大幅な増加は予測されていますので、その予測に基づき必要なリソースを割り出し、B社へリソース増強要求を提出する必要があります。
∴販売部門の販売量予測に基づきリソースの要求量をまとめる
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