令和5年春期試験午後問題 問2
問2 経営戦略
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中堅の電子機器製造販売会社の経営戦略に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
中堅の電子機器製造販売会社の経営戦略に関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
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Q社は,中堅の電子機器製造販売会社で,中小のスーパーマーケット(以下,スーパーという)を顧客としている。Q社の主力製品は,商品管理に使用するバーコードを印字するラベルプリンター,及びバーコードを印字する商品管理用のラベル(以下,バーコードラベルという)などの消耗品である。さらに,技術を転用してバーコード読取装置(以下,バーコードリーダーという)も製造販売している。
顧客がバーコードラベルを使用する場合は,商品に合った大きさ,厚さ,及び材質のバーコードラベルが必要になり,これに対応してラベルプリンターの設定が必要になる。商品ごとに顧客の従業員がマニュアルを見ながら各店舗でラベルプリンターの画面から操作して設定しているが,続々と新商品が出てくる現在,この設定のスキルの習得は,慢性的な人手不足に悩む顧客にとって負担となっている。
〔現在の経営戦略〕
Q社では,ラベルプリンターの機種を多数そろえるとともに,ラベルプリンター及びバーコードリーダーと連携して商品管理や消耗品の使用量管理などを支援するソフトウェアパッケージ(以下,Q社パッケージという)を業界で初めて開発して市場に展開し,①競合がない市場を切り開く経営戦略を掲げ,次に示す施策に基づき積極的に事業展開して業界での優位性を保っている。
〔現在の問題点〕
一方で,今後も業界での優位性を維持するには次の問題もある。
〔経営戦略の強化〕
調査の結果,R社長は次のことを確認した。
顧客がバーコードラベルを使用する場合は,商品に合った大きさ,厚さ,及び材質のバーコードラベルが必要になり,これに対応してラベルプリンターの設定が必要になる。商品ごとに顧客の従業員がマニュアルを見ながら各店舗でラベルプリンターの画面から操作して設定しているが,続々と新商品が出てくる現在,この設定のスキルの習得は,慢性的な人手不足に悩む顧客にとって負担となっている。
〔現在の経営戦略〕
Q社では,ラベルプリンターの機種を多数そろえるとともに,ラベルプリンター及びバーコードリーダーと連携して商品管理や消耗品の使用量管理などを支援するソフトウェアパッケージ(以下,Q社パッケージという)を業界で初めて開発して市場に展開し,①競合がない市場を切り開く経営戦略を掲げ,次に示す施策に基づき積極的に事業展開して業界での優位性を保っている。
- 顧客の従業員がQ社パッケージのガイド画面から操作して,接続されている全ての店舗のラベルプリンターの設定を一度に変更することで,これまでと比べて負担を軽減できる。さらに②顧客の依頼に応じて,ラベルプリンターの設定作業を受託する。
- ラベルプリンターの販売価格は他社より抑え,バーコードラベルなどの消耗品の料金体系は,Q社パッケージで集計した使用量に応じたものとする。
- 毎年,従来機種を改良したラベルプリンターを開発し,ラベルプリンターが有する様々な便利な機能を最大限活用できるように,Q社パッケージの機能を拡充する。
〔現在の問題点〕
一方で,今後も業界での優位性を維持するには次の問題もある。
- 最近開発したラベルプリンターで,設置される環境や操作性などについて,顧客ニーズの変化を十分に把握しきれておらず,顧客満足度が低い機種がある。
- ラベルプリンターは定期的に予防保守を行い,部品を交換しているが,交換する前に故障が発生してしまうことがある。故障が発生した場合のメンテナンスは,顧客の担当者から故障連絡を受けて,高い頻度で発生する故障の修理に必要な部品を持って要員が現場で対応している。しかし,故障部位の詳細な情報は事前に把握できず,修理に必要な部品を持っていない場合は,1回の訪問で修理が完了せず,顧客の業務に影響が出たことがある。また,複数の故障連絡が重なるなど,要員の作業の繁閑が予測困難で,要員が計画的に作業できずに苦慮している。
- 多くの顧客では,消費期限が近くなった商品の売れ残りが発生しそうな場合には,消費期限と売れ残りの見通しから予測した時刻に,値引き価格を印字したバーコードラベルを重ねて貼っている。食品の取扱いが多い顧客からは,顧客の戦略目標の一つである食品廃棄量削減を達成するために,値引き価格を印字したバーコードラベルを貼る適切な時刻を通知する機能を情報システムで提供するよう要望を受けているが,現在のQ社パッケージで管理するデータだけでは対応できない。
- ラベルプリンターの製造コストは業界では平均的だが,バーコードリーダーは,開発に多くの要員を割かれていて製造コストは業界での平均よりも高い。バーコードリーダーの製造販売において,他社と差別化できておらず,販売価格を上げられないので利益を確保できていない。
- ラベルプリンターでは,スーパーを顧客とする市場が飽和状態になりつつある中で,大手の事務機器製造販売会社のS社がラベルプリンターを開発して,スーパーを顧客とする事務機器の商社を通して大手のスーパーに納入した。S社は,スーパーとの直接的な取引はないが,今後,Q社が事業を展開している中小のスーパーを顧客とする市場にも進出するおそれが出てきた。
〔経営戦略の強化〕
調査の結果,R社長は次のことを確認した。
- ラベルプリンターの開発において,顧客ニーズの変化に素早く対応して他社との差別化を図らなければ,顧客満足度が下がり業界での優位性が失われる。
- メンテナンス対応において,故障による顧客業務への影響を減らせば顧客満足度が上がる。顧客満足度を上げれば,既存顧客からのリピート受注率が高まる。
- 顧客満足度を上げるためには,製品開発力及びメンテナンス対応力を強めることに加えて,顧客が情報システムに求める機能の提供力を強めることが必要である。
- バーコードリーダーは,Q社のラベルプリンターやQ社パッケージの製造販売と競合せず,POS端末及び中小のスーパーで定評のある販売管理ソフトウェアパッケージを製造販売するU社から調達できる。
- ラベルプリンターの製品開発力
ラベルプリンターの製品開発において,顧客のニーズを聞き,迅速にラベルプリンターの試作品を開発して顧客に確認してもらうことで,従来よりも的確にニーズを取り込めるようにする。
ラベルプリンターの試作や顧客確認などの開発段階での業務量が増えることになるが,b 。これによって,開発要員を増やさないことと製品開発力を強化することとの整合性を確保する。 - メンテナンス対応力
R社長は,メンテナンス対応の要員数を変えず,③メンテナンス対応力を強化して顧客満足度を上げることを考えた。具体的には,④Q社パッケージが,インターネット経由で,Q社のラベルプリンターの稼働に関するデータ,及びモーターなどの部品の劣化の兆候を示す電圧変化などのデータを収集して適宜Q社に送信する機能を実現する。 - 情報システムの提供力
Q社の業界での優位性を更に高めるために,⑤SDGsの一つである"つくる責任,つかう責任" に関して,顧客が食品の廃棄量の削減を達成するための支援機能など,Q社パッケージの機能追加を促進する。このために,U社と連携してQ社パッケージとU社の販売管理ソフトウェアパッケージとを連動させる。
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設問1
〔現在の経営戦略〕について答えよ。
下線① に関する解答群
- コストリーダーシップ戦略
- 市場開拓戦略
- フォロワー戦略
- ブルーオーシャン戦略
a に関する解答群
- Q社パッケージの販売利益でバーコードラベルなどの消耗品の赤字を補填する
- バーコードラベルなどの消耗品で利益を確保する
- バーコードラベルなどの消耗品を安く販売し,リピート受注を確保する
- ラベルプリンターの販売利益でバーコードラベルなどの消耗品の赤字を補填する
解答例・解答の要点
- 下線①:エ
- 設定スキルの習得に人手を割けないこと (18文字)
- a:イ
解説
- 「競合がない市場を切り開く経営戦略」という記述と解答群より、ブルーオーシャン戦略であると判断できます。
ブルーオーシャン戦略は、血みどろの競争が行われている市場(レッドオーシャン)で競合相手を打ち負かすための競争を戦略の中心に据えるのではなく、新しい価値や新機軸の市場領域を自ら創出し、競争相手のいない市場で高成長と高収益化を目指すというものです。競争相手がいない市場を、ブルーオーシャン=青い平和な海というイメージで言い表しています。
Q社は、ラベルプリンター等と連携することで業務支援ができるQパッケージを業界に先駆けて市場に提供しており、このQパッケージを活用した事業展開によって市場優位性を保っています。単にハードウェアを製造して販売するだけの他の競合相手とは異なり、ソフトウェア連携による価値の提供にシフトしているところが、ブルーオーシャン戦略の一例に当たると言えます。
なお、図1で使われている戦略キャンバスは、ブルーオーシャン戦略の策定において、自社の置かれている状況と競合している他社が置かれている状況を正確に把握し、独自の価値曲線を創造するために用いる分析ツールです。戦略キャンバスは、市場における競争要因(顧客が価値として感じる要因)ごとに顧客価値のレベルをプロットすることにより、戦略の特徴を示します。プロットした各々の点を結んだ線は「価値曲線」と呼ばれます。
したがって「エ」が正解です。- コストリーダーシップ戦略は、他社を上回る圧倒的な低コスト・低価格を実現して市場優位性を築く戦略です。マイケル・ポーターの提供した3つの競争戦略(集中、差別化、コストリーダーシップ)のうちの1つです。
- 市場開拓戦略は、自社が持つ既存の商品やサービスを新規市場(新たな顧客層や地域)に投入することで、成長を目指すというものです。アンゾフが提唱した成長マトリクスの中で示される4つの成長戦略の1つです。この戦略における新規市場とは自社にとっての新規市場であり、実際には既に競合相手が存在している市場なので、未知の市場領域を対象とするブルーオーシャン戦略のコンセプトとは異なります。
- フォロワー戦略は、市場内で目標とする企業の手法を模倣することで開発や広告のコストを抑制し、市場での存続を図る戦略です。フィリップ・コトラーが提供した4つの競争地位戦略のうちの1つです。
- 正しい。ブルーオーシャン戦略は、前例のない新たな価値を提供することで競争のない市場領域を切り開き、高成長・高収益化を目指す戦略です。
- 顧客がQ社に設定作業を依頼する理由について問題文を見ていくと、冒頭部に「続々と新商品が出てくる現在,この設定のスキルの習得は,慢性的な人手不足に悩む顧客にとって負担となっている」という説明があります。顧客であるスーパー業界は慢性的な人手不足であり、ラベルプリンターの設定スキルを習得するために人的コストを割けないという事情があることが読み取れます。Q社は、この課題を解決するというニーズを満たすために設定作業の受託を行っていることがわかります。
したがって、慢性的な人手不足である、設定スキルの習得が負担である、という2点を絡めて解答をまとめればよいことになります。模範解答の他にも、「慢性的な人手不足で、設定スキルの習得が負担であること」「人手不足で設定スキルの習得に時間をかけられないこと」などが解答の候補となります。
∴設定スキルの習得に人手を割けないこと - 〔aについて〕
〔現在の経営戦略〕の「ラベルプリンターの販売価格は他社より抑え,バーコードラベルなどの消耗品の料金体系は,Q社パッケージで集計した使用量に応じたものとする」という記述から、利益を確保する中心が消耗品であることがわかります。このように、商品本体を安価または無料で提供し、消耗品で利益を出す収益構造は消耗品ビジネスモデルと呼ばれ、インクジェットプリンター、電動歯ブラシ、浄水器、電動髭剃り、コーヒーメーカーなど多種多様な業界で見ることができます。- 問題文冒頭に「Q社の主力製品は,…ラベルプリンター,及び…消耗品である」と説明されているため、バーコードラベル事業は赤字ではなく、利益を生んでいることがわかります。したがって間違った説明です。
- 正しい。商品本体を安価で販売し、消耗品で利益を出すビジネスモデルです。
- 安く販売するのはラベルプリンターであり、消耗品の価格設定はパッケージで集計した使用量に応じた従量制です。特に安く設定するとは説明されていないので、リピート受注を確保するための戦略とは言えません。
- 説明が逆です。価格を抑えているラベルプリンターの赤字を、バーコードラベルなどの消耗品の黒字で補てんするビジネスモデルです。
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設問2
〔経営戦略の強化〕について答えよ。
b に関する解答群
- Q社パッケージの販売を中止し,開発要員をラベルプリンターの開発に振り向ける
- バーコードリーダーの開発を中止し,開発要員をラベルプリンターの開発に振り向ける
- メンテナンス要員をラベルプリンターの開発に振り向ける
- ラベルプリンターの機種を減らし,開発要員を減らす
解答例・解答の要点
- b:イ
- リピート受注率を高めること (13文字)
- 可能となること①:タイムリーな予防保守 (10文字)
可能となること②:詳細な故障部位の把握 (10文字)
メリット:要員が計画的に作業できる (12文字)
- 値引き価格を印字したバーコードラベルを貼る適切な時刻を通知する機能 (33文字)
解説
- 〔bについて〕
空欄bの施策を行うことによって、開発要員を増やさずに、製品開発力を強化できるという説明がされています。この点に注目して解答群の説明の正誤を判断していきます。- 〔経営戦略の強化〕の重点戦略(3)に「Q社パッケージの機能追加を促進する」とあり、Qパッケージの販売は中止しません。したがって間違った説明です。
- 正しい。バーコードリーダーは製造コストが業界平均より高く、利益を確保できていません。このため、自社製造をやめU社から調達する方針が打ち出されています。外部から調達するようになればバーコードリーダーの開発に従事していた要員が余剰になるため、この余剰の要員をラベルプリンターの開発に配置転換することで、開発要員全体の人数を増やさずに、ラベルプリンターの製品開発力の強化で必要となる要員増を賄うことができます。
- 重点戦略(2)に「メンテナンス対応の要員数を変えず」とあり、メンテナンス要員は減らしません。したがって間違った説明です。
- 重点戦略(1)では、ニーズの把握や試作品の製造によってラベルプリンターの製品開発力を高めるとあり、機種を減らすことには言及されていません。製品開発力を高めるためには現状よりも多くの要員が必要となります。本肢の説明は戦略と逆行するものであるため誤りです。
- 下線③で、R社長は「メンテナンス対応力を強化して顧客満足度を上げる」ことを考えていて、この顧客満足度を上げることの狙いが問われています。
〔経営戦略の強化〕でR社長が確認したことの2つ目に「メンテナンス対応において,故障による顧客業務への影響を減らせば顧客満足度が上がる。顧客満足度を上げれば,既存顧客からのリピート受注率が高まる」とあります。この記述より、R社長は、既存顧客からのリピート受注率を高めるために、顧客満足度を上げようと考えたということが読み取れます。この部分が解答根拠となります。
〔経営戦略の強化〕中の字句を用い、という指定があるので、上記の記述からそのまま抜き出して「リピート受注率を高めること」が適切な解答となります。
∴リピート受注率を高めること - 顧客の業務への影響を減らすこととは、すなわちラベルプリンターの故障回数を減らし、修理時間を短くすることですから、稼働に関するデータと劣化の兆候を示すデータを収集することによって、これらに寄与できることを考えていきます。
〔現在の問題点〕を読むと、Q社はラベルプリンターの保守に関して、以下の課題を抱えていることがわかります。- 定期的に予防保守を行い部品交換しているが、交換する前に故障が発生してしまうことがある
- 故障部位の詳細な情報は事前に把握できず、部品を持っていなければ、1回の訪問で修理が完了しない
次の②に関しては、収集した2つのデータを元に、故障が発生した場合のメンテナンスにおいて、顧客へ訪問する前に故障部位の事前把握が可能になると考えることができます。これにより修理に必要な部品を持参できる確率が上がるため、迅速な修理や修理のための訪問回数の削減につながることが期待できます。したがって、2つ目は「詳細な故障部位の把握」となります。
現在のQ社では「複数の故障連絡が重なると要員の繁閑が予測困難で,要員が計画的に作業できない」という課題がありますが、上記の2つが可能になれば、突発的な故障が発生する可能性は低くなるとともに、状況に応じて部品の交換時期を早めるなどの調整が可能となりますから、要員が計画的に作業できずに苦慮する状況は改善されることになります。
∴可能となること:タイムリーな予防保守、詳細な故障部位の把握
メリット:要員が計画的に作業できる - 顧客が食品の廃棄量の削減を達成するための支援機能として、Qパッケージに追加すべき機能を考えます。また、この支援機能のために、U社と連携してQ社パッケージとU社の販売管理ソフトウェアパッケージとを連動させる必要があるという説明にも着目します。
〔現在の問題点〕の3つ目には「食品の取扱いが多い顧客からは,顧客の戦略目標の一つである食品廃棄量削減を達成するために,値引き価格を印字したバーコードラベルを貼る適切な時刻を通知する機能を情報システムで提供するよう要望を受けているが,現在のQ社パッケージで管理するデータだけでは対応できない」と記述されています。食品業界向けの販売管理システムでは、賞味期限を考慮した在庫管理やロット管理などの機能が搭載されているため、スーパーで定評のあるU社の販売管理ソフトウェアパッケージとデータ連携をすれば、上記の要望に応えることができます。U社の販売管理ソフトウェアパッケージは、Q社の商品と同じく中小のスーパーを主な顧客としているため、共通の顧客も多いと考えられます。
以上より、顧客から要望を受けている「値引き価格を印字したバーコードラベルを貼る適切な時刻を通知する機能」を、Qパッケージの支援機能として提供することにしたと考えることができます。
∴値引き価格を印字したバーコードラベルを貼る適切な時刻を通知する機能
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