解説

• 概念検証(Proof of Concept：PoC)は、本格的な導入を決定する前に、新しい概念や理論、アイディアの有効性を実証するために行われる小規模な実験のことです。
  
  〔SaaSを活用したIoTの効果向上〕を読むと、A社のSaaSにはW社のIoTシステムとの接続実績がないこと、A社にはいちご栽培でのデータ分析サービスの経験がないこと、分析パラメータの種類の選定と値の設定に試行錯誤が予想されることが説明されています。B部長は、これらの理由により本サービスの実現には不確かな要素が多いことを認識していました。
  
  このように実現可能性に疑問があるままプロジェクトを始めてしまうと、プロジェクトが進行した後で重大な技術的障害が見つかる、時間とコストが浪費される、プロジェクトが失敗するなどのリスクが高まります。このようなリスクを低減するため、実現可能性が確かでない開発においては、PoCを行い、その開発の実現性を検証することが一般的です。したがって、B部長は「SaaS導入プロジェクトにはサービスの実現に不確かな要素が多いこと」を理由として、PoCの実施を決定したと判断できます。解答は20文字以内なので、本文中の字句を用いると「本サービスの実現に不確かな要素は多いから」と解答できます。
  
  ∴本サービスの実現に不確かな要素が多いから
  
  
• 〔aについて〕
  空欄には、P農業組合がいちご栽培の独自情報を開示すること、A社及びW社が製品の重要情報を開示することから、3者間で締結するものが入ります。
  
  P農業組合が提供するいちご栽培の独自情報は、農業組合にとって競争力の源です。同様にA社とW社にとって製品の重要情報は、各社にとって知的財産であり技術的な優位性の源と言えます。このような重要かつ秘匿性の高い情報は、外部に漏れると不利益を被るおそれがあるため、共有する前に開示した情報について第三者に開示しないことや目的外に使用しないことの確約が必要となります。このような組織間の合意は一般的に、守秘(義務)契約、秘密(保持)契約、機密保持契約、NDA、CAと呼ばれます。模範解答では「守秘契約」とされていますが、上記のいずれでも問題ないでしょう。
  
  ∴a＝守秘契約

解説

• P農業組合では、IoTシステムの導入によりハウス内の温度や湿度のコントロールが可能になったものの、過去の環境データをもとに制御パラメータを最適に設定することが難しく、期待していた効果が得られていないという現状があります。本サービスの開始後、制御パラメータは自動で変更されることになりますが、栽培管理を改善していくためにはA社SaaSの分析パラメータを農家がタブレット端末から変更する必要があり、この設定変更も同様に、大半の農家にとっては難しいものであることが想像できます。このため、P農業組合では、農家がガイド機能を活用できるように支援を行うことになっています。
  
  上記の背景を踏まえると、Q組合長が青年部の2名をプロジェクトに参加させて分析パラメータの設定を指示したのは、実際のいちご栽培農家の立場で分析パラメータの設定方法を習得させ、他の農家に対してガイド機能の活用を支援できるように育てることが目的と考えることができます。分析パラメータの設定はタブレット端末から行うため、この役割にはデジタルデバイスやツールの取扱いに慣れている青年部の農家が適任と言えます。
  
  ∴農家がガイド機能を活用できるようになる支援
  
  
• スコープクリープは、プロジェクト開始後に、スケジュール・コスト・資源の調整なくプロジェクトのスコープが拡大していく問題です。
  
  本プロジェクトでは当初の作業スコープを、PoCの規模から実際に栽培している環境の規模に拡張することとしており、後から追加候補を決めてスコープを変更するアプローチを採用しています。つまり、スコープの拡大を前提とした計画ということです。そして、PoCの実施後には、R氏から「Kセンサーの種類を増やして糖度，形状，色づきなどの多様なデータを取得し，きめ細かく装置を動作させたいとの意見」が出されていること、SaaS導入プロジェクトでは、追加するKセンサーの種類の選定はR氏が中心になって進めることから、Kセンサーの種類の追加要求が多くなることが想定されます。
  
  SaaS導入プロジェクトにおけるA社側の作業スコープは、「Kセンサーの種類の追加に対応したデータ連携機能の開発及び分析パラメータの種類の選定と値の設定」ですから、Kセンサーの種類の増加に伴って拡大します。具体的には、C氏の指摘にあるように「Kセンサーの種類を増やすとデータ連携機能の開発規模が増え，かつ，分析パラメータの種類の再選定」という追加作業が発生します。スコープの変更について適切なコントロールを行わない場合、これがスコープクリープの発生要因となるおそれがあります。したがって、解答としては模範解答のように、Kセンサーが増えることによってデータ連携機能の追加開発が必要になることについての説明が適切となります。
  
  また、問題文中にはW社とA社の2つの作業スコープについて「二つの作業スコープは密接に関連しており，W社側の作業スコープの変更はA社側の作業スコープに影響する」とあるため、スコープクリープの発生要因をこの関連性の観点から説明した、「W社の作業スコープの変更がA社の作業スコープに影響すること」も解答として問題ないとされています。
  
  ∴Kセンサ―の種類を増やすとデータ連携機能の開発規模が増えること
  　W社側の作業スコープの変更はA社側の作業スコープに影響すること
  
  
• 〔bcについて〕
  本文中にはこの2つの空欄の組合せが2か所ありますが、2つ目の以下の文章に当てはまる字句を考えるほうがわかりやすいと思います。
  • スコープが拡大してしまうので，プロジェクトの品質を確保するためb及びcのベースラインの変更をプロジェクトオーナーに報告し，変更可否を判断してもらう
  プロジェクトマネジメントにおいて、スケジュール、スコープ、コストは3つの制約と言われ、どれか1つを変更した場合、品質を保つためには少なくとも他の2つのうち1つを変更しなければならない関係にあります。本問では、スコープが拡大したときに、品質を保つために変更する必要のある要素が問われていますから、3要素のうちスコープ以外の「スケジュール」と「コスト」が当てはまると判断できます。
  
  また、1つ目の「b及びcのベースライン」について着目した場合には、「B部長は，PoCによって得られた本サービスの実現性の検証結果に加え，導入コスト，導入スケジュールなどを提案書にまとめた」という記述より、コストとスケジュールについて基準となる水準（ベースライン）が決められていることがわかるので、これを解答根拠に2つの要素を答えることができます。
  
  ∴bc＝コスト、スケジュール（順不同）
  
  
• ⅰのテストの内容は「利用規模を想定して，IoT機器の接続やデータ連携に着目したテスト」です。『規模』の検証が実施できるかどうかの点から考えば、対応する検証内容は「最大台数のIoT機器及び装置をつなげた状態での動作の検証」であることがわかります。
  
  なお、他のⅱ～ⅳの各テストと選択肢の対応は以下のとおりです。
  
  2. 同一ハウス内の無線を使った同一タイミングでの複数装置の動作の検証（ウ）
  3. 屋内屋外，温暖寒冷など様々な環境下での動作の検証（ア）
  4. 無関係の外部者がシステムにアクセスできないことの検証（エ）
  ∴イ：最大台数のIoT機器及び装置をつなげた状態での動作の検証
  
  
• 下線④を含む一文を確認すると「B部長は，プロジェクトの完了時点では，プロジェクトの目的の実現に対する真の評価はできないと考えた」と記述されています。
  
  そこで、本プロジェクトの目的について確認すると、〔SaaSを活用したIoTの効果向上〕に「B部長は，プロジェクトの目的を"農家が，本サービスを使っていちご栽培を改善し，より良い収穫を実現すること"にした」とあります。一方、プロジェクトの完了について確認すると、下線④の直前に「本サービスをP農業組合へ導入したことをもってプロジェクトは完了するが，農家はいちごの栽培を続け，収穫によって導入効果を評価する」と記述されています。
  
  本サービスの導入効果を評価するためにはいちごの収穫を確認する必要がありますが、栽培管理されたいちごが生育し、収穫されるまでには時間を要しますから、上記定義のプロジェクト完了時点ではまだプロジェクトの目的を達成できたかどうかを確認することができません。B部長の考えは以上に基づくものであると判断できます。したがって、正解は「いちごを収穫するまで導入効果を評価できないから」となります。
  
  ∴いちごを収穫するまで導入効果を評価できないから