平成28年春期試験午後問題 問2
問2 経営戦略
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事業継続計画(BCP)に関する次の記述を読んで,設問1,2に答えよ。
事業継続計画(BCP)に関する次の記述を読んで,設問1,2に答えよ。
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A社は,家電製品の中核部品を組み立てて家電メーカーに納品している。A社の社長は,経営企画部のF部長から,自然災害に関してリスク分析を行ったところ,本社と工場があるA社の所在地域での大規模地震のリスクレベルが,最も高くなったと報告を受けた。そこで,A社の社長は,大規模地震を想定したBCPを策定するよう,F部長に指示した。
〔A社の現状〕
A社の組織は,経営企画部,総務人事部,X事業を営むX事業部,及びY事業を営むY事業部から成り立っている。X事業部は家電メーカーのB社に中核部品Xを納入し,Y事業部は家電メーカーC社に中核部品Yを納入している。中核部品を組み立てるために使う部品は,A社と同じ地域の部品メーカーのD社及びE社から,長期にわたって,安定的に購入しており,他社から同じ部品を購入することは困難な状況にある。
A社が行っている取引の概要は,図1のとおりである。 中核部品Xは,3年前にA社が独自の技術によって開発した精密部品であり,他の会社では製造していない。一方,中核部品Yは,A社とは別の地域にある会社でも製造されている。C社は,災害などの発生によってサプライチェーンが途切れて中核部品が納入されなくなるリスクを低減するために,A社からは全体の50%を購入している。
A社,D社,E社とも,経営に大きな影響を及ぼすと想定される事象が発生した場合の緊急連絡体制は整備済みであるが,現在,BCPは策定していない。
〔BCPの検討〕
F部長は,次の方針でBCPを検討するよう,G課長に指示した。
G課長は,BCPの検討結果を事業継続計画案として文書化し,F部長に説明したところ,大規模地震を想定した今回のBCPについて,次の課題への対応を行うよう指示を受けた。
〔A社の現状〕
A社の組織は,経営企画部,総務人事部,X事業を営むX事業部,及びY事業を営むY事業部から成り立っている。X事業部は家電メーカーのB社に中核部品Xを納入し,Y事業部は家電メーカーC社に中核部品Yを納入している。中核部品を組み立てるために使う部品は,A社と同じ地域の部品メーカーのD社及びE社から,長期にわたって,安定的に購入しており,他社から同じ部品を購入することは困難な状況にある。
A社が行っている取引の概要は,図1のとおりである。 中核部品Xは,3年前にA社が独自の技術によって開発した精密部品であり,他の会社では製造していない。一方,中核部品Yは,A社とは別の地域にある会社でも製造されている。C社は,災害などの発生によってサプライチェーンが途切れて中核部品が納入されなくなるリスクを低減するために,A社からは全体の50%を購入している。
A社,D社,E社とも,経営に大きな影響を及ぼすと想定される事象が発生した場合の緊急連絡体制は整備済みであるが,現在,BCPは策定していない。
〔BCPの検討〕
F部長は,次の方針でBCPを検討するよう,G課長に指示した。
- 方針1 :
- 自社の従業員及びその家族の安全を第一とする。
- 方針2 :
- 顧客である家電メーカーに深刻な影響が出ないように事業の優先度を考慮して,できるだけ速やかに自社の事業を再開する。
- 被害状況の想定と復旧見込み
G課長は,A社の所在地域での大規模地震の発生による被害状況と復旧見込みを次のように想定した。
(社外の被害状況)- 業務に必要な道路,公共交通機関:一部で損壊が発生するが,大規模地震発生日を1日目として,10日目に復旧する。
- 固定電話,携帯電話,スマートフォン:一部で通信システムの停止が発生するが,大規模地震発生日を1日目として,一般通話は7日目,電子メールなどのパケット通信は3日目に復旧する。
- 本社と工場の被害:中核部品X,Yそれぞれの製造ラインと出荷ラインの一部が損傷し,両方のラインがストップする。社屋の一部も損傷するが,使用は可能である。
- 電気:停電が発生するが,大規模地震発生日を1日目として,7日目に復旧する。自家発電装置は未設置である。
- 本社と工場の業務用専用回線:使用できなくなるが,大規模地震発生日を1日目として,7日目に復旧する。
- 社屋の被害状況の確認:公共交通機関が復旧した翌日に,総務人事部員が到着して確認が完了する。
- 従業員と修理業者の到着:社屋の被害状況を確認した翌日に到着する。
- 中核部品X,Yの製造ラインの復旧:従業員と修理業者が到着した翌日から,製造ラインの復旧に着手し,3日目に復旧が完了する。
- 出荷ラインの復旧:製造ラインの復旧が完了した翌日から,出荷ラインの復旧に着手し,3日目に復旧が完了する。
- 部品供給:必要な復旧が完了して,大規模地震発生前と同等の製造能力で製造が開始できる時点までには,D社及びE社から,7日分の製造に必要な部品の25%が到着し,製造の開始時点以後の4週間は,毎週1回,同量の部品が到着する。5週間以後は,製造に必要な部品が全て到着する。
- 部品の在庫量:7日分の在庫を保有している。
- 関連事項の整理
- 製造関連の情報システム:毎日,夜間に,1日分の製造関連の実績データを社内のバックアップシステムにフルバックアップしている。停電が発生すると,無停電電源装置(UPS)に自動的に切り替わり,情報システムをシャットダウンする。
- aの決定
各事業の事業影響度分析(以下,BIAという)を行い,その結果を表1のとおり取りまとめた。 BIAの結果,X事業とY事業は,営業利益,事業の持続性,事業の成長性とも同じであるが,①Y事業よりもX事業を優先して復旧させることにした。 - 目標復旧時間(以下,RTOという),目標復旧時点(以下,RPOという),目標復旧レベル(以下,RLOという)の決定
X事業を最優先で復旧させることにし,大規模地震発生日を1日目として,3日目にBCPを発動する前提で,X事業の出荷ラインの復旧が完了するまでの時間を整理した。
その結果を踏まえて,大規模地震発生時点ではなく,BCP発動日を1日目として,RTOをb日に設定することにした。
次に,関連事項の整理を踏まえて,RPOを設定した。
続いて,被害想定における部品の在庫量と供給量から復旧レベルの平均値を算定した。中核部品Xを1週間に7日間製造する条件で算定すると,X事業を再開してから4週間の復旧レベルの平均値は,平常時の製造量の50%となった。この平均値を踏まえて,B社と打合せをしたところ,RLOを75%にするように要請があった。そこで,部品供給量は変わらない前提で,X事業を再開してから4週間の復旧レベルの平均値を算定した際に用いた算定式を活用して,RL0 75%を達成するために必要な在庫量を算定した。その結果,最少でもc日分の部品を常に在庫しておくことになった。 - 非就業時間帯の従業員の駆け付け指示
あらかじめ,復旧活動のため,A社に駆け付ける対象となる従業員を決めておく。
従業員及びその家族の安否確認が完了した後,A社に駆け付ける対象となる従業員には,労働契約法に基づき,dに違反しないよう,次の条件を満足できると上司が判断した場合にだけ,駆け付ける指示を行うことにする。- 会社の社屋の安全が総務人事部によって確認済みであること。
- 余震などによる二次災害の危険がないこと。
- 上司と連絡可能な通信機器を所持していること。
(以下,省略)
- 災害対策本部の設置
大規模地震が就業時間帯に発生した場合には,本社の災害対策室に災害対策本部員が集合して,災害対策本部を設置する。また,非就業時間帯に発生した場合には,災害対策本部員が,会社から貸与されているスマートフォンから電話会議に,可能な限り参加することによって,災害対策本部を設置する。
G課長は,BCPの検討結果を事業継続計画案として文書化し,F部長に説明したところ,大規模地震を想定した今回のBCPについて,次の課題への対応を行うよう指示を受けた。
- BCPを実現するために必要な設備投資,大規模地震の発生で事業活動が中断することによるe,復旧に掛かる費用,従業員への給与支払,部品メーカーへの支払などへの考慮が必要となる。そのため,営業・投資・財務の諸活動によるキャッシュフローの変動を算出し,経営への影響を確認しておくこと。
- ②D社及びE社からの部品購入から中核部品Xの納入までの流れを途切れさせないで,A社の事業が事業継続計画どおりに復旧できるよう,施策を行うこと。
- 従業員に対して行うBCPの教育・訓練の実施結果を分析してBCPの課題を抽出するとともに,中長期での経営環境の変化によって生じると考察される現行のBCPへの影響を分析し,③PDCAの考え方に基づいた対応を定期的に実施すること。
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設問1
〔BCPの検討〕について,(1)~(3)に答えよ。
- 本文中のa,dに入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。
- 本文中の下線①にした背景と理由を,45字以内で述べよ。
- 本文中のb,cに入れる適切な数値を解答群の中から選び,記号で答えよ。
a に関する解答群
- EVA
- KPI
- 資本生産性
- 復旧優先順位
d に関する解答群
- 安全配慮義務
- コーポレートガバナンス
- 守秘義務
- 労働者派遣契約
b,c に関する解答群
- 10.5
- 13
- 14
- 16
- 17.5
- 18
- 21
- 28
- 30
- 32
解答例・解答の要点
- a:エ
d:ア
- A社しか中核部品Xの製造をしておらず,B社の事業継続への影響が大きいから (36文字)
- b:エ
c:ウ
解説
事業継続計画(Business Continuity Planning:BCP)に関する問題です。BCPとは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。中小企業庁が公開している"BCP策定運用指針"によれば、BCPの特徴は次の通りです。
- 優先して継続・復旧すべき中核事業を特定する
- 緊急時における中核事業の目標復旧時間を定めておく
- 緊急時に提供できるサービスのレベルについて顧客と予め協議しておく
- 事業拠点や生産設備、仕入品調達等の代替策を用意しておく
- 全ての従業員と事業継続についてコミュニケーションを図っておく
- 〔aについて〕
手順(3)では、事業の比較を行って優先して復旧するべき事業を決定しているため「復旧優先順位」が入ります。また、本文の手順と上記BCPの特徴を照らし合わせて、BCP策定における最初の決定事項であることからも「復旧優先順位」が適切であるとわかります。
∴a=エ:復旧優先順位
〔dについて〕
本文より、労働契約法に基づく内容であることがわかります。労働契約法第5条には「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働ができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められています。
駆け付け指示を出す3つの条件を見ると、安全性を確保できる場合のみに駆け付け対象としていることがわかります。災害発生時の招集には危険が伴うこともあるため、安全配慮義務の遵守が大切です。- 正しい。安全配慮義務は、上記の通り、労働契約法第5条によって規定されています。
- コーポレートガバナンスは、企業における不正を防ぐ仕組みです。
- 守秘義務は、営業秘密など、公にされていない事実を口外しないことです。
- 労働者派遣契約は、労働者を派遣する際に締結する契約です。
- 表1から読み解くことを考えがちですが、売上が高いことが理由ではありません。〔A社の現状〕と図1より、X事業部で製造する部品XはB社の中核部品であることがわかります。そして、部品Xを製造している会社は他にありません。つまり、A社から中核部品Xの供給が途絶えると、B社の製造がストップしてしまうということになります。一方、Y事業部で製造している部品は、A社以外でも製造しており、C社はA社からの購入を全体の50%としています。
BCPの方針2では、「顧客である家電メーカーに深刻な影響が出ないように事業の優先度を考慮」とあることから、B社への影響度の大きさを考え、X事業を優先したと考えられます。
∴A社しか中核部品Xの製造をしておらず,B社の事業継続への影響が大きいから - まず、RTO、RPO、RLOについて確認しておきます。
- RTO (Recovery Time Objective,目標復旧時間)
- 企業が不測の事態に陥った際、「いつまでに復旧するのか」という時間的な目標のことです。
- RPO (Recovery Point Objective,目標復旧地点)
- 「いつの時点のデータまで復元する必要があるか」という目標です。データのバックアップ頻度をイメージするとわかりやすいです。
- RLO (Recovery Level Objective,目標復旧レベル)
- 「RTOとして定めた時間内にどのレベルまで復旧させるべきか」という目標です。基本的に、RTOとRLOをセットで設定することになります。
「X事業の出荷ラインの復旧が完了するまで」の時間になります。本文「(1)被害状況の想定と復旧見込み」より、X事業の出荷ライン復旧までに必要な内容を抽出し、計算します。- 業務に必要な道路、公共交通機関:大規模地震発生日を1日目として、10日目に復旧する
- 社屋の被害状況の確認:公共交通機関復旧+1日
- 従業員と修理業者の到着:被害状況確認+1日
- 製造ラインの復旧:修理業者到着+3日
- 出荷ラインの復旧:製造ラインの復旧+3日
〔cについて〕
まず、部品供給と製造に関する情報を整理します。- X事業を再開してから、中核部品Xを1週間に7日間製造する
- 製造開始前に、7日分の製造に必要な部品の25%が到着する
- 製造開始4週間までは、毎週1回、7日分の製造に必要な部品の25%が到着する
- 7日分の在庫を保有している
目標復旧レベル75%を達成するためには、4週間で「28日分×75%=21日分」を製造する必要があります。D社およびE社からの供給量は変わらないため、単純に不足分を在庫でカバーしなければなりません。現状と目標を比較すると7日分が不足するため、現状の7日分に不足分の7日分を加えた14日分が最少在庫数となります。
∴c=ウ:14
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設問2
〔BCPに関する課題と対応策〕について,(1)~(3)に答えよ。
解答例・解答の要点
- e:売上及び営業利益の減少 (11文字)
- D社及びE社にBCPの策定を要請する (18文字)
- BCPの有効性を高めるため (13文字)
解説
- 〔eについて〕
事業活動が中断することによって、どの様な影響が出るかを考えます。一般的には、事業影響度分析(BIA:Business Impact Analysis)などによって分析を行います。本文では、BIAの結果が表1にまとめられていますが、現状の分析結果のみとなっています。本問では、キャッシュフローへの影響について考える必要があるため、表1のBIAの結果より、事業活動が中断することによる金銭面への影響に該当する字句が答えになります。
∴e=売上及び営業利益の減少 - 「どこにどのような施策を要請」とあることから、A社単独で行う施策では無く、誰かに何かを依頼するものと考えられます。A社のBCPは、D社およびE社からの部品供給が途絶えないことを前提としているため、A社BCPが有効に機能するためには、サプライチェーンの上流に位置するD社及びE社へも協力を仰ぐことが必要不可欠となります。現状、D社及びE社はBCPを策定していないため、部品供給元であるD社及びE社にもBCPの策定を要請すべきです。
∴D社及びE社にBCPの策定を要請する - PDCA(ピーディーシーエー)は、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(見直し・改善)の4段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改善する手法です。企業が事業を継続するためにBCPを策定し、その運用や見直し、または教育や訓練などを包括的に行う一連の管理活動のことをBCM(Business Continuity Management,事業継続管理)といい、BCMにもPDCAの考え方が取り入れられています。
本文より「PDCAの考え方に基づいた対応を定期的に実施すること」とありますが、この目的は、BCPが常に有効なものであり続けるために、事業環境の変化に応じて継続的に改善することにあります。BCPは、一度策定した後に見直されずにそのまま数年が経ってしまうことが少なくありませんので、PDCA活動を取り入れることにより有効性を高めることが大切です。
∴BCPの有効性を高めるため
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