平成30年春期試験午後問題 問2
問2 経営戦略
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事業戦略の策定に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。
事業戦略の策定に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。
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G社は,郊外及び駅前に,加工食品・生鮮食品を主体としたスーパーマーケットチェーンを展開している,中規模の企業である。これまでのターゲット顧客は,郊外の住宅地にある中規模な店舗の場合は,近隣に居住している主婦であり,住宅地と商業地とが混在した地域にある駅前の小規模な店舗の場合は,住宅地の主婦と通勤者である。
G社は,近年,売上高,利益率とも伸び悩んできたことから,昨年,既存の店舗(以下,実店舗という)の周囲 5km 圏内に居住する共働き者・単身者をターゲット顧客として取り込もうと,インターネット店舗(以下,ネット店舗という)での販売を開始した。ネット店舗では,実店舗で扱っている商品を対象に,受注は受付センタで行い,梱包と配送の手配は,実店舗で行っている。
今年度,G社の経営企画部では,売上高,利益率を増加するために,実店舗とネット店舗の活性化を柱とする,新たな中期事業戦略を策定することになった。そこで,経営企画部のH部長は,I課長に対して,G社の内部環境と外部環境を整理した上で,中期事業戦略案を作成するよう指示した。
〔内部環境と外部環境の整理〕
I課長は,内部環境と外部環境を調査し,次のとおり整理した。
(1) 内部環境
I課長は,中期事業戦略案を策定するために,クロスSWOT分析による戦略オプションを表1のように策定した。 I課長は,戦略オプションに基づいて,中期事業戦略案を次のように作成して,H部長に説明した。
〔ターゲットとする顧客の見直しとポジショニングの設定〕
I課長は,事業施策案の作成に当たり,店舗の地域特性と規模に応じて,ターゲットとする顧客を見直すことにした。郊外の実店舗とネット店舗では,ターゲットとする顧客をこれまでどおりとし,駅前の実店舗は小規模なので,今後注力すべきターゲット顧客を明確にして,ポジショニングを設定することにした。
ターゲットとする顧客と実店舗のポジショニングが明確となったので,I課長は引
き続き,事業施策案を作成した。事業施策案の抜粋は,次のとおりである。
G社は,近年,売上高,利益率とも伸び悩んできたことから,昨年,既存の店舗(以下,実店舗という)の周囲 5km 圏内に居住する共働き者・単身者をターゲット顧客として取り込もうと,インターネット店舗(以下,ネット店舗という)での販売を開始した。ネット店舗では,実店舗で扱っている商品を対象に,受注は受付センタで行い,梱包と配送の手配は,実店舗で行っている。
今年度,G社の経営企画部では,売上高,利益率を増加するために,実店舗とネット店舗の活性化を柱とする,新たな中期事業戦略を策定することになった。そこで,経営企画部のH部長は,I課長に対して,G社の内部環境と外部環境を整理した上で,中期事業戦略案を作成するよう指示した。
〔内部環境と外部環境の整理〕
I課長は,内部環境と外部環境を調査し,次のとおり整理した。
(1) 内部環境
- 実店舗の状況
- 営業時間は,8時から19時までである。
- 価格が安く,価格以外にはこだわりがない顧客向けの食品(以下,低付加価値食品という)の販売が主体であり,店舗の規模を考慮した品ぞろえとなっている。
- 価格が高くても購入してもらえる,品質にこだわりがある顧客向けの食品(以下,高付加価値食品という)は,少量の販売とはいえ,顧客には好評である。
- 丁寧な接客と,商品が見つけやすく明るい雰囲気を特徴とする店舗が,スーパーマーケットチェーンのブランドとして定着してきた。
- 会員制度を運営しており,実店舗で会員登録した顧客には,実店舗用の顧客IDの入ったポイントカードを発行して,商品購入時に所定のポイントを付与している。
- ネット店舗の状況
- 販売は,少量にとどまっている。
- ネット店舗利用のため,インターネットで会員登録した顧客には,ネット店舗用の顧客IDを割り振り,商品購入時に所定のポイントを付与している。
- 購入者及びポイント利用の状況
- 郊外の実店舗では,近隣に居住する主婦への売上が80%を占めている。
- 駅前の実店舗では,住宅地の主婦への売上が40%,通勤者への売上が40%を占めている。
- ネット店舗では,共働き者への売上が60%,単身者への売上が20%を占めている。
- 実店舗とネット店舗のポイントを相互に利用することはできない。
- 社内の情報システムの状況
- 顧客情報は,実店舗とネット店舗での共用は行わず,個々の顧客管理システムで,それぞれの顧客IDを用いて管理し,購入額を集計している。
- スーパーマーケット市場の状況
- 実店舗のスーパーマーケットの市場規模は,インターネット通販の台頭などの影響で縮小傾向にある。
- スーパーマーケット業界では,価格競争が激化している。
- 顧客の購入状況
- 主婦には,安全性が高い自然食品などの高付加価値食品が人気になっている。
- 通勤者には,価格の高さにもかかわらず,海外から仕入れたブランド物の酒類などの高付加価値食品の人気が高まっている。
- 仕事帰りの遅い時間帯に,高付加価値食品が購入される傾向が強く見られる。
- ブランド物の酒類に合う高級なおつまみ類にこだわる顧客が増えている。
- "高価格だが,それに見合うおいしさ"などといった友人・知人の口コミから判断して食品を購入し,その感想を自分の友人・知人に知らせることによって,人気となる食品が増えている。
I課長は,中期事業戦略案を策定するために,クロスSWOT分析による戦略オプションを表1のように策定した。 I課長は,戦略オプションに基づいて,中期事業戦略案を次のように作成して,H部長に説明した。
- 実店舗,ネット店舗の特性に応じて,aの品ぞろえを充実する。
- 店舗での販売機会を拡大する。
- 情報システムを改善して,コスト低減とマーケティング強化を図る。
- 店舗の心地良い環境を更に整えることによって,bを強化する。
- ソーシャルメディアを活用して,口コミの拡大を進める。
〔ターゲットとする顧客の見直しとポジショニングの設定〕
I課長は,事業施策案の作成に当たり,店舗の地域特性と規模に応じて,ターゲットとする顧客を見直すことにした。郊外の実店舗とネット店舗では,ターゲットとする顧客をこれまでどおりとし,駅前の実店舗は小規模なので,今後注力すべきターゲット顧客を明確にして,ポジショニングを設定することにした。
- 注力すべきターゲット顧客の明確化
駅前の実店舗では,高付加価値食品の購入が多い通勤者を,注力すべきターゲットとする。 - ポジショニングの設定
I課長は,注力すべきターゲットに基づき,食品の付加価値と食品の価格を二つの軸として駅前の実店舗のポジショニングマップ案を作成し,H部長に説明した。H部長からは,このポジショニングマップで顧客のcを表現することはできるが,二つの軸はdので,食品の付加価値と駅前の実店舗の閉店時刻を軸にして,ポジショニングマップを修正するようにアドバイスを受けた。そこで,I課長は,駅前の実店舗のポジショニングマップを図1のとおり作成し,H部長の了解を得た。
ターゲットとする顧客と実店舗のポジショニングが明確となったので,I課長は引
き続き,事業施策案を作成した。事業施策案の抜粋は,次のとおりである。
- 商品に関する施策
- 郊外の実店舗では,低付加価値食品の品ぞろえを主体としながら,自然食品を使った手作りの総菜を充実させる。
- 駅前の実店舗では,①顧客がブランド物の酒類を購入する際に,範囲の経済性の効果をもたらすように,品ぞろえを充実させる。
- 各店舗での販売チャネルに関する施策
- 実店舗では,来店した顧客に食品の新たな調理方法や効能を丁寧に説明する。
- 駅前の実店舗では,閉店時刻を19時から23時に変更する。
- ネット店舗では,料理のレシピ集を掲載する。
- 情報システムに関する施策
- 実店舗とネット店舗の両店舗を利用し,会員登録している顧客については,本人の承諾が得られた場合,②両店舗での総購入額に応じたボーナスポイントをプレゼントし,両店舗でのポイントの合算,利用を可能とする。
- プロモーション施策
- 実店舗での購買行動のモデルであるAIDMAに加えて,ネット店舗ではインターネットを活用した新しい購買行動モデルを反映する。具体的には,顧客がソーシャルメディアなどの口コミ情報をeして商品を購入し,使用後の感想などをfすることによって,消費行動の迅速な拡大につなげる。
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設問1
〔中期事業戦略の策定〕について,表1中及び本文中のaに入れる適切な字句を10字以内で,bに入れる適切な字句を25字以内でそれぞれ答えよ。
解答例・解答の要点
a:高付加価値食品 (7文字)
b:スーパーマーケットチェーンのブランド (18文字)
b:スーパーマーケットチェーンのブランド (18文字)
解説
SWOT分析について問われています。SWOTとは、自社や製品の置かれた環境を、内部環境と外部環境に分けて分析する手法の一つです。S・W・O・Tはそれぞれ次の意味を持ちます。
- S(strength):内部環境。自社の強み
- W(weakness):内部環境。自社の弱み
- O(opportunity):外部環境。市場の機会
- T(threat):外部環境。市場の脅威
- 強み(S)×機会(O)
- 市場機会を追い風に自社の強みを積極的に活用する戦略
- 強み(S)×脅威(T)
- 自社の強みを活用して市場の脅威を克服する戦略
- 弱み(S)×機会(O)
- 自社の弱みで市場機会を逃さないための戦略
- 弱み(S)×脅威(T)
- 事業への影響をどのように小さくするかの戦略
aの場所は「強み」と「機会」がクロスした部分です。そこで、内部環境から、品ぞろえや売上から連想できる強みを探します。以下が該当します。
- 店舗の規模を考慮した品ぞろえ
- 高付加価値食品が好評
本文中には、「高付加価値食品が購入される傾向が強く見られる」や「高付加価値食品の人気が高まっている」といった高付加価値食品に対するポジティブな内容が散見されます。よって、強みと機会がマッチさせた戦略として「高付加価値食品の品ぞろえを充実して,売上を増やす」ことが考えられます。
なお、aは弱みと脅威がクロスした部分にも存在していますが、矛盾はしていません。なぜなら、G社では、高付加価値食品の販売量が少なく(弱み)、また、スーパーマーケット業界では、価格競争が激化している(脅威)とあるためです。
∴a=高付加価値食品
〔bについて〕
bは「強み」と「脅威」がクロスした部分です。
「商品購入時の心地よい環境を更に整える」とあることから、現時点でも、ある程度の環境が既に整っていると解釈できます。また、文面から、実店舗での購入時であることが連想できます。
そこで、(1)内部環境の(i)実店舗の状況から、これらに該当する内容を探すと、「丁寧な接客と,商品が見つけやすく明るい雰囲気を特徴とする店舗が,スーパーマーケットチェーンのブランドとして定着してきた」とあるため、これを更に強化することがわかります。なぜなら、上記のブランドイメージを顧客に定着させることで他社との差別化を図る戦略が考えられるからです。
解答は「〇〇を強化する」と続く25文字以内ですので、「スーパーマーケットチェーンのブランド」という文言が入ります。
∴b=スーパーマーケットチェーンのブランド
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設問2
〔ターゲットとする顧客の見直しとポジショニングの設定〕について,(1),(2)に答えよ。
- 本文中のcに入れる適切な字句を5字以内で,dに入れる適切な字句を10字以内でそれぞれ答えよ。
- 駅前の実店舗について,ターゲットとする顧客の見直し前と見直し後のポジショニングとして,図1中の記号の適切な組合せを解答群の中から選び,記号で答えよ。ここで,"(見直し前のポジショニング)→(見直し後のポジショニング)"と表記するものとする。
解答群
- (あ) → (い)
- (い) → (え)
- (う) → (あ)
- (う) → (い)
- (え) → (あ)
- (え) → (う)
解答例・解答の要点
- c:ニーズ (3文字)
d:強い相関がある (7文字)
- エ
解説
ポジショニングマップについて、問われています。ポジショニングマップとは、顧客をターゲットとした場合に、そのターゲットに対する各社の位置づけを表します。縦横の軸に、それぞれターゲットにとって重要な要因をとります。ここで注意すべきことは、縦横の軸が似通ってしまう(相関関係にある)と、各社の配置が偏り、正確な分析ができなくなってしまうことです。
- 〔cについて〕
I課長が、最初に作成したポジショニングマップが、どのようなものか考える必要があります。cは、I課長の案が何を表現したのか問われていますので、各軸が表している事柄がヒントになります。案では、それぞれの軸が「価値」と「価格」に設定してありますので、顧客の求めているもの、すなわち「ニーズ(又は需要)」を表現しているといえます。
∴c=ニーズ
〔dについて〕
H部長が修正するように求めた理由です。修正内容は、食品価値の軸を閉店時刻に変更するというものです。I課長の案では、二軸とも顧客のニーズを表していますので、似たような内容になっていると言えます。前述したように、ポジショニングマップでは二軸に相関がある項目を用いることは、好ましくありません。一般的に「価格」が高くなるほど「付加価値」が高くのは当然であり、二軸には強い相関関係が認められるため、H部長は修正を指示したと考えられます。
∴d=強い相関がある - 本設問で注意すべき点は、問われている「見直し前後」が、ポジショニングマップの修正前後ではなく、G社がターゲットとする顧客の見直し前後だということです。
つまり、図1のポジショニングマップにおいて、以前ターゲットとしていた顧客がどの位置に属して、今後ターゲットにする顧客がどの位置にシフトするのかという視点で考えなくてはなりません。
[見直し前のターゲット顧客]- 営業時間は、8時から19時 … (1)内部環境より
- 価格が安く、価格以外にこだわりがない … (1)内部環境より
- 閉店時刻を19時から23時に変更 … 事業施策(2)より
- 高付加価値食品の購入が多い通勤者 … 注力すべきターゲット顧客の明確化より
∴エ:(う) → (い)
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設問3
〔事業施策の策定〕について,(1)~(3)に答えよ。
e,f に関する解答群
- 拡散
- 記憶
- 検索
- 行動
- 注目
解答例・解答の要点
- 高級なおつまみ類の品ぞろえを増やす (17文字)
- 実店舗とネット店舗の顧客IDを統合し,顧客ごとの購入額を集計する (32文字)
顧客の属性情報によって名寄せをし,顧客ごとの購入額を集計する (30文字)
- e:ウ
f:ア
解説
- 下線①に含まれる「範囲の経済性」という用語に注目します。範囲の経済性とは、共通の生産設備を使って生産する製品の種類を増やしたり、同一の顧客に提供する商品範囲を広げたりすることで、費用を節減しながら収入を増やせることをいいます。
本問では、品ぞろえを適切に増やすことで、顧客に複数種の品物を購入してもらい、それによって売上が増えることが、範囲の経済性の効果と捉えることができます。つまり、顧客がブランド物の酒類を購入する際に、何か一緒に購入するようなものがないか、と考えると良いです。
ⅱ.顧客の購入状況に、「ブランド物の酒類に合う高級なおつまみ類にこだわる顧客が増えている」とあることから、高級なおつまみ類を品ぞろえに加えることが該当します。
∴高級なおつまみ類の品ぞろえを増やす - 情報システムの改善内容とあることから、現時点でのネガティブな部分を探します。論点は、ポイント制度と購入金額についてです。
(1)内部環境には、「実店舗とネット店舗のポイントを相互に利用することはできない」「顧客情報は,実店舗とネット店舗での共用は行わず」とあるように、表現は異なりますが、目的達成の障害となる情報がいくつか確認できます。つまり、現時点では両店舗を合わせた購入額を把握できるようになっておらず、命題である「両店舗でのポイントの合算」を実現できません。よって、顧客情報をネット店舗と実店舗で共用するなどして、顧客ごとの総購入額を集計できるようなシステムへの改修が必要となります。
∴実店舗とネット店舗の顧客IDを統合し、顧客ごとの購入額を集計する
顧客の属性情報によって名寄せをし、顧客ごとの購入額を集計する - AIDMA(アイドマ)は、消費者の購買決定プロセスを説明するモデルで、購入に至るまでには、注意(Attention)→関心(Interest)→欲求(Desire)→記憶(Memory)→行動(Action)の段階があることを示しています。
ただし、AIDMAは原則として実店舗における購買行動をメインに考えたモデルであるため、ネット店舗での購買行動には合致しない部分もあります。そこで近年では、AIDMAの考え方をインターネットやSNSが普及した現代に当てはめたモデルとして「AISAS(アイサス)」が提唱されています。- AISAS
- 注意(Attention)→関心(Interest)→検索(Search)→行動(Action)→共有(Share)という購買モデル。
AIDMAの欲求(Desire)と記憶(Memory)を検索(Search)に置き換え、行動(Action)の後に共有(Share)を追加している。
〔eについて〕
AISASモデルを踏まえると、eは、商品を購入する前に起こす行動なので、商品や店舗についての情報をインターネット上で検索することが当てはまります。
〔fについて〕
fは、商品を使用した後の感想についてであることと、「消費行動の迅速な拡大」とあること、及び昨今のSNSの特徴から拡散が入ると判断できます。本来のAISASモデルでは、"拡散(Spread)"ではなく"共有(Share)"ですが、本設問では選択肢にないため類似の行動である"拡散"でも適切と言えるでしょう。
∴e=ウ:検索
f=ア:拡散
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