応用情報技術者過去問題 令和5年秋期 午後問9
⇄問題文と設問を画面2分割で開く⇱問題PDF問9 プロジェクトマネジメント
新たな金融サービスを提供するシステム開発プロジェクトに関する次の記述を読んで,設問に答えよ。
A社は,様々な金融商品を扱う金融サービス業である。これまで,全国の支店網を通じて顧客を獲得・維持してきたが,ここ数年,顧客接点のデジタル化を進めた競合他社に顧客が流出している。そこで,A社は顧客流出を防ぐため,店頭での対面接客に加えて,認知・検索・行動・共有などの顧客接点をデジタル化し,顧客関係性を強化する新たな金融サービスを提供するために,新システムを開発するプロジェクト(以下,本プロジェクトという)の立ち上げを決定した。本プロジェクトはA社の取締役会で承認され,マーケティング部と情報システム部を統括するB役員がプロジェクト責任者となり,プロジェクトマネージャ(PM)にはマーケティング部のC課長が任命された。C課長は,本プロジェクトの立ち上げに着手した。
〔プロジェクトの立ち上げ〕
C課長は,プロジェクト憲章を次のとおりまとめた。
C課長は,顧客接点のデジタル化への機械学習の適用を,自社だけで実施するか,他社に技術支援を業務委託するかを検討した。その結果,自社にリソースがない点と,b点を考慮し,PoCとシステム開発の両フェーズで機械学習に関する技術支援をベンダーに業務委託することにした。
また,C課長は,PoCを実施しても,既知のリスクとして特定できない不確実性は残るので,プロジェクトが進むにつれて明らかになる未知のリスクへの対策として,プロジェクトの回復力(レジリエンス)を高める対策が必要と考えた。
〔ベンダーの選定〕
C課長は,機械学習技術に関する技術支援への対応が可能なベンダー7社について,ベンダーから提示された情報を基に,機械学習技術に関する現在の対応状況を調査した。
この調査に基づき,C課長は,技術習得とシステム開発の支援の提案を依頼するべンダーを4社に絞り込んだ。その上で,ベンダーからの提案書に対して五つの評価項目を定め,ベンダーを評価することとした。
ベンダー4社に対して,提案を依頼し,提出された提案を基に,プロジェクトメンバーで評価項目について評価を行い,表2のベンダー比較表を作成した。 ベンダー比較表を基に,B役員の指示を踏まえて審査した結果,c社を選定した。B役員の最終承認を得て,①本プロジェクトのPoCの特性を考慮し,準委任契約で委託することにした。
C課長は,システム開発フェーズの途中で,技術支援の範囲拡大や支援メンバーの増員を依頼した場合の対応までのリードタイムや増員の条件について,②選定したべンダーに確認しようと考えた。
〔役割分担〕
C課長は,マーケティング部のステークホルダがもつ多様な意見を理解して,それを本プロジェクトのプロダクトバックログとして設定するプロダクトオーナーの役割が重要であると考えた。C課長は,③D主任が,プロダクトオーナーに適任であると考え,D主任に担当してもらうことにした。
C課長は,プロジェクトチームのメンバーと協議して,PoCでは,D主任の設定した仮説に基づき,プロダクトバックログを定め,プロジェクトの開発メンバーがベンダーの技術支援を受けてMVP(Minimum Viable Product)を作成することにした。そして,マーケティング部のステークホルダに試用してもらい,④あるものを測定することにした。
A社は,様々な金融商品を扱う金融サービス業である。これまで,全国の支店網を通じて顧客を獲得・維持してきたが,ここ数年,顧客接点のデジタル化を進めた競合他社に顧客が流出している。そこで,A社は顧客流出を防ぐため,店頭での対面接客に加えて,認知・検索・行動・共有などの顧客接点をデジタル化し,顧客関係性を強化する新たな金融サービスを提供するために,新システムを開発するプロジェクト(以下,本プロジェクトという)の立ち上げを決定した。本プロジェクトはA社の取締役会で承認され,マーケティング部と情報システム部を統括するB役員がプロジェクト責任者となり,プロジェクトマネージャ(PM)にはマーケティング部のC課長が任命された。C課長は,本プロジェクトの立ち上げに着手した。
〔プロジェクトの立ち上げ〕
C課長は,プロジェクト憲章を次のとおりまとめた。
- プロジェクトの目的:顧客接点をデジタル化することで,顧客関係性を強化する新たな金融サービスを提供する。
- マイルストーン:本プロジェクト立ち上げ後6か月以内に,ファーストリリースする。ファーストリリース後の顧客との関係性強化の状況を評価して,その後のプロジェクトの計画を検討する。
- スコープ:機械学習技術を採用し,スマートフォンを用いて顧客の好みやニーズに合わせた新たな金融サービスを提供する。マーケティング部のステークホルダは新たな金融サービスについて多様な意見をもち,プロジェクト実行中はその影響を受けるので頻繁なスコープの変更を想定する。
- プロジェクトフェーズ:過去に経験が少ない新たな金融サービスの提供に,経験のない新たな技術である機械学習技術を採用するので,システム開発に先立ち,新たなサービスの提供と新たな技術の採用の両面で実現性を検証するPoCのフェーズを設ける。PoCフェーズの評価基準には,顧客関係性の強化の達成状況など,定量的な評価が可能な重要成功要因の指標を用いる。
- プロジェクトチーム:表1のメンバーでプロジェクトを立ち上げ,適宜メンバーを追加する。
- 顧客接点のデジタル化への機械学習の適用を,自社だけで技術習得して実施するか,他社に技術支援を業務として委託するか,今後のことも考えて決定すること。
- ベンダーに技術支援を業務委託する場合は,マーケティング部と情報システム部の従業員が,自分たちで使いこなせるレベルまで機械学習技術を習得する支援をしてもらうこと。また,新たな金融サービスの提供において,顧客の様々な年代層が容易に利用できるシステムの開発を支援できるベンダーを選定すること。なお,PoCでは,技術面の検証業務を実施し,成果として検証結果をまとめたレポートを作成してもらうこと。
- 同業者から,自社だけで機械学習技術を習得しようとしたが,習得に2年掛かったという話も聞いたので,進め方には留意すること。
C課長は,顧客接点のデジタル化への機械学習の適用を,自社だけで実施するか,他社に技術支援を業務委託するかを検討した。その結果,自社にリソースがない点と,b点を考慮し,PoCとシステム開発の両フェーズで機械学習に関する技術支援をベンダーに業務委託することにした。
また,C課長は,PoCを実施しても,既知のリスクとして特定できない不確実性は残るので,プロジェクトが進むにつれて明らかになる未知のリスクへの対策として,プロジェクトの回復力(レジリエンス)を高める対策が必要と考えた。
〔ベンダーの選定〕
C課長は,機械学習技術に関する技術支援への対応が可能なベンダー7社について,ベンダーから提示された情報を基に,機械学習技術に関する現在の対応状況を調査した。
この調査に基づき,C課長は,技術習得とシステム開発の支援の提案を依頼するべンダーを4社に絞り込んだ。その上で,ベンダーからの提案書に対して五つの評価項目を定め,ベンダーを評価することとした。
ベンダー4社に対して,提案を依頼し,提出された提案を基に,プロジェクトメンバーで評価項目について評価を行い,表2のベンダー比較表を作成した。 ベンダー比較表を基に,B役員の指示を踏まえて審査した結果,c社を選定した。B役員の最終承認を得て,①本プロジェクトのPoCの特性を考慮し,準委任契約で委託することにした。
C課長は,システム開発フェーズの途中で,技術支援の範囲拡大や支援メンバーの増員を依頼した場合の対応までのリードタイムや増員の条件について,②選定したべンダーに確認しようと考えた。
〔役割分担〕
C課長は,マーケティング部のステークホルダがもつ多様な意見を理解して,それを本プロジェクトのプロダクトバックログとして設定するプロダクトオーナーの役割が重要であると考えた。C課長は,③D主任が,プロダクトオーナーに適任であると考え,D主任に担当してもらうことにした。
C課長は,プロジェクトチームのメンバーと協議して,PoCでは,D主任の設定した仮説に基づき,プロダクトバックログを定め,プロジェクトの開発メンバーがベンダーの技術支援を受けてMVP(Minimum Viable Product)を作成することにした。そして,マーケティング部のステークホルダに試用してもらい,④あるものを測定することにした。
設問1
〔プロジェクトの立ち上げ〕について答えよ。
- 本文中のaに入れる適切な字句を20字以内で答えよ。
- 本文中のbに入れる適切な字句を20字以内で答えよ。
解答入力欄
- a:
- b:
解答例・解答の要点
- a:頻繁なスコープの変更を想定する (15文字)
- b:機械学習技術の習得の時間がない (15文字)
解説
- 〔aについて〕
設問の条件に従い、空欄aを含む一文を確認すると「本プロジェクトはPoCを実施する点と,リリースまでに6か月しかない点,a点を考慮し,アジャイル型開発アプローチを採用することにした」と記述されています。
アジャイル型開発は、顧客の要求に応じて、迅速かつ適応的にソフトウェア開発を行う軽量な開発手法の総称です。従来型のウォーターフォール型開発と比較して次のような特徴があります。- ビジネス価値のある動くソフトウェアを早期に提供できる
- 反復型のアプローチにより、ビジネスニーズの変化に俊敏に対応できる
- 現物による仮説検証サイクルにより、顧客価値を確認しながら開発を進められる
従来型の開発プロセスでは、最初に最終的な仕様を確定し、設計、開発、テストまで一気通貫で行われますから、仕様変更には多大な手戻りコストが発生するというデメリットがあります。その点、アジャイル型開発は、変化が起こることを前提とし、その変化に臨機応変に対応する仕組みを持っています。本プロジェクトの特性である「頻繁なスコープの変更を想定する」と、従来型ではなくアジャイル型開発が適していると言えるので、C課長が考慮したのはこの点であると判断できます。
∴a=頻繁なスコープの変更を想定する - 〔bについて〕
設問の条件に従い、空欄bを含む一文を確認すると「その結果,自社にリソースがない点と,b点を考慮し,PoCとシステム開発の両フェーズで機械学習に関する技術支援をベンダーに業務委託することにした」と記述されています。
本文中より、機械学習に関する技術についての記述を確認すると「同業者から,自社だけで機械学習技術を習得しようとしたが,習得に2年掛かったという話も聞いたので,進め方には留意すること」とあります。本プロジェクトのファーストリリースは6か月後で、それまでに機械学習技術を使った新たな金融サービスを構築しなければなりませんから、スケジュール的に自社だけで技術習得するには時間が足りません。このため、ベンダーに技術支援を依頼することにしたと判断できます。したがって、解答としては「機械学習技術の習得の時間がない」「自社だけでの技術習得には時間が足りない」「同業者は機械学習技術の習得に2年を要した」などが適切となります。
なお、「機械学習技術の経験者がいない」という解答も考えられますが、これは空欄b前の「自社にリソースがない」に含まれているため適切ではありません。
∴b=機械学習技術の習得の時間がない
設問2
〔ベンダーの選定〕について答えよ。
解答群
- 既知のリスクとして特定できない不確実性が残る。
- 実現性を検証することが目的である。
- 評価基準に重要成功要因の指標を用いる。
- マーケティング部がMVPを試用する。
解答入力欄
- c:
- 理由:
解答例・解答の要点
- c:Q
- 理由:定着化と使用性の両方が最高点だから (17文字)
- イ
- システム開発フェーズの回復力を確かめるため (21文字)
解説
- 設問の条件に従い、空欄cを含む一文を確認すると「ベンダー比較表を基に,B役員の指示を踏まえて審査した結果,c社を選定した」と記述されてます。そこで、技術支援の業務委託に関するB役員の指示について確認すると〔プロジェクトの立ち上げ〕から、以下の2点が読み取れます。
- ベンダーに技術支援を業務委託する場合は,マーケティング部と情報システム部の従業員が,自分たちで使いこなせるレベルまで機械学習技術を習得する支援をしてもらうこと
- 新たな金融サービスの提供において,顧客の様々な年代層が容易に利用できるシステムの開発を支援できるベンダーを選定すること
∴c=Q
理由=定着化と使用性の両方が最高点だから - 設問の条件に従い、下線①を含む一文を確認すると「B役員の最終承認を得て,本プロジェクトのPoCの特性を考慮し,準委任契約で委託することにした」と記述されています。
システム開発の業務委託をする際の契約類型としては、請負と準委任があります。法律上の性質や主な相違点は以下のとおりです。- 請負
- 受託者が成果物の完成に責任を負う。引き渡した目的物に対する契約不適合責任が生じる。成果物の内容が具体的に特定できる場合に選択される
- 準委任
- 受託者は善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負う。作業自体の実施を目的とする場合や、成果物の内容が具体的に特定できない場合に選択される
∴イ:実現性を検証することが目的である。 - 設問の条件に従い、下線②を含む一文を確認すると「システム開発フェーズの途中で,技術支援の範囲拡大や支援メンバーの増員を依頼した場合の対応までのリードタイムや増員の条件について,選定したべンダーに確認しようと考えた」と記述されています。
プロジェクト進行中の課題について本文中を確認すると、C課長は「プロジェクトが進むにつれて明らかになる未知のリスクへの対策として,プロジェクトの回復力(レジリエンス)を高める対策が必要と考えた」とあります。レジリエンス(Resilience)は、適応力や回復力という意味で、複雑かつ変化する環境下での組織の適応能力のことです。C課長が選定したべンダーに確認しようと考えたのが、システム開発フェーズの途中における対応策であることから、この確認がプロジェクトの回復力に関連していると想像できます。
回復力を高めるためには、まず現状の回復力がどの程度であるかを把握する必要がありますから、ベンダーから受けられるサポートの範囲や条件について確認しようとしたと判断できます。
∴システム開発フェーズの回復力を確かめるため
設問3
解答入力欄
解答例・解答の要点
- マーケティング業務と開発プロジェクト参加の経験があるから (28文字)
- ・重要成功要因の指標の値 (11文字)
・顧客関係性の強化の達成状況 (13文字)
解説
- プロダクトオーナーにD主任をアサインした理由について回答する設問です。
プロダクトオーナーは、アジャイル型開発のひとつであるスクラム開発における役割(ロール)であり、製品開発に最終的な責任をもつ人です。プロダクトに必要な機能を定義し、その機能の順位づけを行ったり、開発チームが機能を理解できるように説明したりする責任があります。一般的にプロダクトオーナーには、業務領域のニーズを理解するスキルとシステム開発をコントロールするスキルが求められます。
表1にはD主任のスキルと経験として「1年前に競合企業から転職してきたマーケティング業務の専門家。CRMや会員向けECサイトのシステム開発プロジェクトに参加した経験がある」と説明されています。C課長は、本プロジェクトのプロダクトオーナーの役割として「マーケティング部のステークホルダがもつ多様な意見を理解して,それを本プロジェクトのプロダクトバックログとして設定する」ことが重要と考えていますから、まずD主任が本プロジェクトの業務領域であるマーケティング業務を専門としていることが選任理由の一つに当たるとわかります。そして、プロダクトオーナーには、単に業務を熟知しているだけでなく、ステークホルダーの要求をシステムの機能に変換する能力やシステム開発を総括する能力が求められますから、CRMシステムやECサイトのシステム開発プロジェクトへの参加経験があることも選任理由の一つと言えます。
したがって、解答としては表1からそのまま抜き出す形で「マーケティング業務と開発プロジェクト参加の経験があるから」が適切となります。
∴マーケティング業務と開発プロジェクト参加の経験があるから - 設問の条件に従い、下線④を含む一文を確認すると「マーケティング部のステークホルダに(MVPを)試用してもらい,あるものを測定することにした」と記述されています。MVPは、顧客に価値を提供できる実用最小限の機能をもつ製品のことです。
PoCフェーズについて確認すると、〔プロジェクトの立ち上げ〕に「PoCフェーズの評価基準には,顧客関係性の強化の達成状況など,定量的な評価が可能な重要成功要因の指標を用いる」とあるので、MVPを試用してもらい、その評価を行うために重要成功要因の指標を測定することがわかります。重要成功要因の指標の具体例として、顧客関係性の強化の達成状況が挙げられているので、こちらでも問題ありません。
∴・重要成功要因の指標の値
・顧客関係性の強化の達成状況