応用情報技術者過去問題 平成23年特別 午後問11

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問11 サービスマネジメント

システムの変更管理に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。

〔改善前の変更管理の状況〕
 K社は,地方都市に30店舗を有する中堅スーパーマーケットであり,自社で販売管理システムの運用・保守を行っている。K社ではシステムの構成管理を徹底しており,情報システム部が本社と全支店のハードウェア及びソフトウェアを一元管理している。
 システム変更要求の受付担当である情報システム部のL君は,商品開発部からシステム変更要求(以下,A案件という)を受け付けた。その翌日に,支店の取りまとめ部署である販売促進部から別のシステム変更要求(以下,B案件という)を受け付けたが,A,B二つの案件を同時に対応する余裕はなかった。L君は,受付順にA案件からシステム対応を行うことにした。
 L君は,情報システム部のM課長にA案件の実施の承認を受け,変更のスケジュールを作成し,変更作業に着手した。ITサービスの構成情報を一元的に管理する構成管理データベース(CMDB)に対して,変更対象プログラムの変更作業登録を行うと,構成アイテム属性の一つであるステータスが"本番稼働中"から"開発中"に自動更新された。L君は,変更の構築・テストを完了し,リリース確認会議の場で正式なリリース承認を受けた。その後,変更した確定版プログラムをaに格納し,本社内各部署及び全支店にリリース内容とリリース予定日をアナウンスした。リリース日に,①確定版プログラムが本番環境に反映された。K社の変更管理,構成管理,及びリリース管理の関係を,図1に示す。
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 ②その後,販売促進部のN部長からM課長にクレームが届いた。販売促進部から受け付けたB案件が,全社的に重要な変更要求であったにもかかわらず,今回リリースの対象外になったことに対するものであった。

〔変更管理プロセスの改善〕
 L君はB案件のシステム対応を速やかに行ったので,今回は大事には至らなかった。変更要求の取扱いに関しては,これまでも見直しを要請されていた。そこで,M課長は社内システムの変更管理プロセスの改善を検討し,図2に示す新たな変更管理プロセスを作成した。
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 新たな変更管理プロセスの中で,次のルールを定めた。
  • 変更管理マネージャを設定し,M課長が務める。変更管理マネージャは,変更の登録とフィルタリング,優先度の割当て,及びカテゴリ分けを行う。
  • 変更に関するインパクトとリソースの評価,及び変更の実施の認可を行う組織であるbを設置する。変更管理マネージャのM課長が,議長を務める。
 また,この変更管理プロセスを実施するに当たって,bの通常開催サイクル,及び販売管理システムの通常リリースサイクルを,"1か月に1回"と設定した。

〔変更管理プロセスの例外処理〕
 数か月後,ある地域の競合店が日替わりで目玉商品のタイムセールを実施し,K社の既存顧客が大量に競合店に流れていく事態が発生した。これに対抗するために,競合店の売値を見た上で支店独自の売値を即時設定できるシステム変更要求(以下,C案件という)が情報システム部に届いた。M課長は,L君にC案件の変更調査を指示すると,変更対象プログラムは1本で,プログラムの変更とテストは数日間で対応できるという報告を受けた。しかし,通常リリースサイクルでの次回のリリース予定日は3週間後であり,それを待っていると大きな機会損失につながってしまう。
 ビジネス上の緊急度が高く,早急なシステム対応が望まれていることを把握した情報システム部のT部長は,通常リリースサイクル分の変更と並行してC案件のシステム対応を行い,1週間後にC案件だけを先にリリースするという,例外的な変更の実施を認めることにした。
 T部長及びM課長の指示を受けたL君は,C案件の変更対象プログラムの構成アイテム属性を調べた。ステータスは"開発中"になっており,次回通常リリースサイクル分として,既に変更実施中であることが分かった。L君は,通常リリースサイクル分の変更とC案件の変更を間違いなく行うために,次の手順で作業を行うことをM課長に報告し,承認を受けた。
  • 通常リリースサイクル分の変更対象プログラムの変更作業登録をキャンセルする。
  • c
  • d
  • e
  • f
  • 通常リリースサイクル分の変更対象プログラムの変更作業を再開する。

設問1

変更管理プロセスについて,(1),(2)に答えよ。
  • 本文中のabに入れる適切な字句を,解答群の中から選び,記号で答えよ。
  • K社の新たな変更管理プロセスの管理対象として適切なものを,解答群の中からすべて選び,記号で答えよ。
a,b に関する解答群
  • CAB
  • DHS
  • DSL
  • PMO
  • SCM
  • SLA
(2) に関する解答群
  • 競合店に対して優位に立つための戦略的なシステム変更
  • 支店独自で即時設定した目玉商品の売値
  • 支店の責任者が行う販売管理システムログインパスワードの変更内容
  • 支店の販売管理システム用PCのOSバージョンアップ

解答入力欄

    • a:
    • b:
    • o:

解答例・解答の要点

    • a:
    • b:
    • o:ア,エ
  • 解説

    • 用語の穴埋め問題ですので、各用語の概要を確認します。
      DSL (Definitive Software Library)
      確定したソフトウェアのコピーを、安全に保管しておく保管庫です。
      CAB (Change Advisory Board)
      要求されたシステム変更について影響評価を行い、変更の承認や却下をする組織です。変更諮問委員会ともいいます。
      DHS (Definitive Hardware Store)
      確定したハードウェアと同じものを、安全に保管しておく保管庫です。
      PMO (Project Management Office)
      企業内で並行して実施されている個々のプロジェクトのマネジメント業務の支援、プロジェクトマネージャのサポート、部門間の調整などプロジェクトが円滑に実施されるように支援を行う専門の部署です。
      SCM (Supply Chain Management)
      生産・在庫・購買・販売・物流などすべての情報をリアルタイムに交換することによってサプライチェーン全体の効率を大幅に向上させる手法です。
      SLA (Service Level Agreement)
      発注者とサービス提供者との間で、サービスの品質の内容について合意した文書のことです。
      aについて〕
      変更した確定版プログラムを格納する場所ですので、[a]には「DSL」が当てはまります。

      bについて〕
      「変更に関するインパクトとリソースの評価,及び変更の実施の認可を行う組織」なので、[b]には「CAB」が当てはまります。

      a=ウ:DSL
       b=ア:CAB

    • 変更管理プロセスのルールに「この変更管理プロセスを実施するに当たって,[b:CAB]の通常開催サイクル,販売管理システムの通常リリースサイクルを,"1か月に1回"と設定した」と記載があります。

      変更管理プロセスの管理対象となったシステム変更は、多くても1カ月に1回しか変更が行われないのですから、承認済みの手順で行う変更や、日常的に行うべき変更は対象とすることができません。一般的に変更管理プロセスの管理対象となるのは、日常的に行う標準的な変更以外の変更で、変更に伴うコストや影響が大きいものです。それらの変更は、変更によりITサービスに大きな影響を与える可能性があるため、図2のような手順に従って確実な管理をしなければなりません。

      選択肢のうち、「イ」は運用担当者が日常的に行う変更のため、「ウ」は頻度は多くありませんが事前に承認済みの手順で行う変更なので対象外です。「ア」と「エ」は変更の規模が大きく、事前に十分に確認、検証してから変更を行う必要があるので、K社の新たな変更管理プロセスの管理対象となります。

      ∴ア,エ

    設問2

    本文中の下線①に示した処理と同時に行われる構成管理にかかわる処理を,40字以内で述べよ。

    解答入力欄

    • o:

    解答例・解答の要点

    • o:構成アイテム属性のステータスが"本番稼動中"に更新される (28文字)

    解説

    構成管理に注目して問題文を見ると、〔改善前の変更管理の状況〕 の3段落目に「変更対象プログラムの変更作業登録を行うと,構成アイテム属性の一つであるステータスが"本番稼働中"から"開発中"に自動更新された」と記載があります。
    構成管理データベースの情報を最新の状態に保つためには、確定版プログラムが本番環境に反映された後、直ちにスタータスを"開発中"から"本番稼働中"に戻さなければなりません。したがって、これが本番環境への反映と同時に行う処理となります。

    ∴構成アイテムのステータスが"本番稼動中"に更新される

    設問3

    本文中の下線②に示したクレームは,改善前の変更管理プロセスが不十分であったことから発生した。不十分であった点を,30字以内で述べよ。

    解答入力欄

    • o:

    解答例・解答の要点

    • o:変更要求に対する優先度の割当てが定義されていない (24文字)

    解説

    今回のクレームの原因について、下線②の近くに「全社的に重要な変更要求であったにもかかわらず,今回リリースの対象外になったこと」であると記載があります。そして、リリース対象外となった理由については、「A,B二つの案件を同時に対応する余裕はなかった。L君は,受付順にA案件からシステム対応を行うことにした」と説明されています。
    このことから、変更の優先度(重要度)を考慮せず受付順に処理していたことが、今回のクレームの直接的な原因であることがわかります。変更案件ごとの重要度を評価し、優先順位を決めて対応していれば問題はなかったわけですから、K社に変更案件ごとに優先度の割当てをするプロセスが存在しなかった点が不十分だったと言えます。

    ∴変更要求に対する優先度の割当てが定義されていない

    設問4

    変更管理プロセスの例外処理について,(1),(2)に答えよ。
    • 緊急対応が必要な変更の実施を可能にするために,追加設定するプロセスとして適切なものを,解答群の中から二つ選び,記号で答えよ。
    • 本文中の複数の変更を並行して実施する場合,どのような手順で変更作業を行うのが適切か。cfに入れる適切な字句を,解答群の中から選び,記号で答えよ。
    解答群
    • 緊急時の権限代行者を,その場で決めることができるプロセスを設定する。
    • 正規の承認手段とは別に,メールや電話で関連責任者に承認を得ることができるプロセスを設定する。
    • 変更の結果の確認とリリース承認を,省略できるプロセスを設定する。
    • 変更の実施の認可を待たずに変更の構築に着手し,後で認可を受けることができるプロセスを設定する。
    • 変更のスケジュール作成を,担当者の判断で省略できるプロセスを設定する。
    c,d,e,f に関する解答群
    • C案件の構築・テストを行う。
    • C案件の変更対象プログラムの変更作業登録を行う。
    • C案件のリリース承認を受け,リリース作業を行う。
    • 通常リリースサイクル分の変更対象プログラムの変更作業登録を行う。
    • 通常リリースサイクル分の変更の構築・テストを行う。
    • 通常リリースサイクル分のリリース承認を受け,リリース作業を行う。

    解答入力欄

      • c:
      • d:
      • e:
      • f:

    解答例・解答の要点

    • c:
    • d:
    • e:
    • f:
  • 解説

    • 緊急対応が必要な変更の実施を可能にするためには、通常の変更で行っている手順を、迅速かつ確実に行えるための手順を整備することが必要となります。
      • あらかじめM課長不在時に権限を代行する者を決めておくのは有効ですが、その場で代行者を決めるのでは統制が効かなくなります。よって誤りです。
      • 正しい。通常時の厳格な承認プロセスを緊急時にも一律に適用すると、対応時期が遅れてしまいます。迅速に対応するためには、緊急時には電話やメールなどで実施の承認を得ることができるプロセスを整備しておくことが望まれます。
      • 変更結果の確認と承認を省略することは、K社の新たな変更管理プロセスに反するため誤りです。
      • 正しい。[b:CAB]が開催されるのは1カ月に1回ですから、緊急時にはCABの認可を待っているわけにはいきません。このような場合に備えて、その場では別の小規模意思決定グループ(ECAB:緊急変更諮問委員会)を招集して緊急の意思決定を委ね、後からCABで認可をするプロセスも必要となります。
      • 変更スケジュールの省略は、K社の新たな変更管理プロセスに反するため誤りです。
      ∴イ,エ

    • 〔改善前の変更管理の状況〕に「変更対象プログラムの変更作業登録を行うと,…。L君は,変更の構築・テストを完了し,リリース確認会議の場で正式なリリース承認を受けた」とあります。普通に考えれば、この記述どおり①変更登録作業→②構築・テスト→③リリース作業の順で行われますから、「ア」~「ウ」の中では「イ」→「ア」→「ウ」の順、「エ」~「カ」の中では「エ」→「オ」→「カ」の順で作業が行われることになります。

      C案件だけを先にリリースすることに決定しており、(1)が通常リリース分のキャンセル、(6)が通常リリース分の再開ですから、一旦、通常リリース分の変更作業を中止し、C案件の変更を実施した後、通常リリース分の変更を再開する流れになることがわかります。
      C案件の変更を実施するためには「イ」→「ア」→「ウ」のプロセスが必要ですから、[c]~[e]にはこの3つが当てはまります。(6)通常リリース分の変更作業再開は、通常リリース分の変更作業登録をした後でなければなりませんから、[f]には「エ」が当てはまります。「オ」「カ」は通常リリース分を再開した後に行うことなので、ここでは関係ありません。

      c=イ:C案件の変更対象プログラムの変更作業登録を行う。
       d=ア:C案件の構築・テストを行う。
       e=ウ:C案件のリリース承認を受け,リリース作業を行う。
       f=エ:通常リリースサイクル分の変更対象プログラムの変更作業登録を行う。
    問11成績

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