応用情報技術者過去問題 令和3年春期 午後問2
⇄問題文と設問を画面2分割で開く⇱問題PDF問2 経営戦略
情報システム戦略の策定に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。
C社は,中堅の機械部品メーカーである。自動車メーカーなど顧客の工場に製品を出荷している。顧客の工場は国内だけでなく,世界の各地域に設置されている。
C社は,これまで情報システムはコストと考えていて,情報システム投資に消極的であった。その結果,業務効率が上がらず,また必要なデータがすぐに把提できずに経営陣の意思決定に遅れが生じていた。このような中,経済産業省のDXレポートを確認したC社の経営陣は危機感をもち,情報システム投資の必要性を強く感じて,外部からCIO(Chief Information Officer)を採用した。CIOは,次期経営戦略に基づいて積極的な次期情報システム戦略を策定する方針を掲げ,これを立案する組織横断型のチームを立ち上げて,情報システム部のD課長をリーダーに任命した。
〔C社の次期経営戦略〕
C社の次期経営戦略は,競合他社に対する競争優位性を保つため,次を目的として策定された。
C社の経営環境は次のとおりである。
〔バリューチェーン〕
D課長は,バリューチェーン分析を行うこととし,まず,C社で行っているaを作る活動について,調査・分析した。その結果,C社の諸活動は図1の一般的なバリューチェーンで表されることを確認した。
また,バリューチェーンの諸活動のコストも分析した。
なお,作られた総aと,aを作る活動の総コストの差が,bとなる。〔C社の強みと弱み〕
次に,D課長はバリューチェーンの諸活動について,C社の経営環境から強みと弱みを分析した。
C社の強みを抜粋して,表1に示す。 一方,弱みとしては,新たな製品の市場投入の際には特に重要なdの活動が挙げられた。
〔次期情報システム戦略と計画〕
D課長は,これまでの分析結果を基に,C社基幹システムを刷新する次期情報システム戦略を策定し,計画を次のとおり立案した。
SFAで利用が想定される主な機能を表2に示す。 D課長が,これらの次期情報システム戦略,計画及びSFAで利用が想定される主な機能をCIOに説明したところ,次の指摘を受けた。
D課長はCIOの指摘を踏まえて,次期情報システム戦略と計画を修正した。
C社は,中堅の機械部品メーカーである。自動車メーカーなど顧客の工場に製品を出荷している。顧客の工場は国内だけでなく,世界の各地域に設置されている。
C社は,これまで情報システムはコストと考えていて,情報システム投資に消極的であった。その結果,業務効率が上がらず,また必要なデータがすぐに把提できずに経営陣の意思決定に遅れが生じていた。このような中,経済産業省のDXレポートを確認したC社の経営陣は危機感をもち,情報システム投資の必要性を強く感じて,外部からCIO(Chief Information Officer)を採用した。CIOは,次期経営戦略に基づいて積極的な次期情報システム戦略を策定する方針を掲げ,これを立案する組織横断型のチームを立ち上げて,情報システム部のD課長をリーダーに任命した。
〔C社の次期経営戦略〕
C社の次期経営戦略は,競合他社に対する競争優位性を保つため,次を目的として策定された。
- コンプライアンスを最優先し,ステークホルダから選ばれる企業になる。
- 技術力を生かし,顧客及び社会のニーズに合う製品を積極的に市場に投入し,シェアを拡大して売上を伸ばす。
- 業務効率を向上させ,利益率を改善する。
- 経営陣が必要な情報をタイムリーに把握し,迅速な意思決定を行えるようにする。
C社の経営環境は次のとおりである。
- これまでは市場の伸びに支えられ,売上も利益も伸びていた。しかし,最近の市場の伸びの鈍化に伴い,既存製品の売上と利益の伸びが鈍化している。
- C社が取り扱う製品の開発には高い技術力が要求される。C社は,将来に向けた研究に力を入れており,研究開発部を設け,競合他社にはない優れたアイディアを出したり,技術を開発したりしている。しかし,それがどのように製品に結び付けられるか研究開発部では具体的な活用の方法がイメージできないことがある。営業員と顧客のやり取りにヒントとなる情報があるが,研究開発部には情報が届いていない。
- 競合他社はアジア地域に工場を設置しているケースが多いのに対し,C社は国内外を問わず顧客の工場の近くに自社の工場を設置している。
- C社は,各工場で独自の製造ノウハウを多数もっており,各工場の業務プロセスや各工場に設置されている情報システムにこれらを反映させ,競争優位性を保っている。
- これまでは,顧客からの引合いに対応することで製品を受注できたので,販売・マーケティングにはあまり力を入れてこなかった。しかし,新たな製品を市場に投入する際には,その特長を顧客に理解してもらう必要があり,現状では不十分である。
- 複数の営業員で,同じ顧客の本社,事業所及び工場を分担して担当している。営業員が顧客から得た情報や顧客への対応内容が,同じ顧客を担当する他の営業員と十分に共有できていないので,非効率な営業となっていることがある。
- C社の製品採用後の顧客に対するサービスは,顧客を訪問して行っている。顧客訪問時の担当者による丁寧な対応が好評であり,C社のサービスは競合他社に比べて優れているという,顧客からの好意的な意見が多い。
- 研究開発部が利用している技術開発支援システムを除く,C社の本社や各工場で利用している情報システム(以下,C社基幹システムという)は,個別に開発・運用・保守をしているので,データが統合されていない。C社基幹システムの構造は複雑化しており,情報システム部ではこの運用・保守に掛かる労力が増加している。
- 競合他社に打ち勝つために,情報システム部では,AIなどの最新のデジタル技術の早期習得が必要となってきているが,既存情報システムの運用・保守の業務に追われ手が回っていない。
〔バリューチェーン〕
D課長は,バリューチェーン分析を行うこととし,まず,C社で行っているaを作る活動について,調査・分析した。その結果,C社の諸活動は図1の一般的なバリューチェーンで表されることを確認した。
また,バリューチェーンの諸活動のコストも分析した。
なお,作られた総aと,aを作る活動の総コストの差が,bとなる。〔C社の強みと弱み〕
次に,D課長はバリューチェーンの諸活動について,C社の経営環境から強みと弱みを分析した。
C社の強みを抜粋して,表1に示す。 一方,弱みとしては,新たな製品の市場投入の際には特に重要なdの活動が挙げられた。
〔次期情報システム戦略と計画〕
D課長は,これまでの分析結果を基に,C社基幹システムを刷新する次期情報システム戦略を策定し,計画を次のとおり立案した。
- SaaSのERPを導入し,カスタマイズは最小限にして極力標準機能を使用することによって,情報システム部ではeを削減し,現在できていないfを行う。
- 経営陣が迅速な意思決定ができるように,データウェアハウスを導入し,様々なソースデータを,gツールを使ってデータウェアハウスに書き込み,統合する。
- 同じ顧客を担当する営業員が,情報を共有し効率的な営業を行えるように,SFAを導入する。
SFAで利用が想定される主な機能を表2に示す。 D課長が,これらの次期情報システム戦略,計画及びSFAで利用が想定される主な機能をCIOに説明したところ,次の指摘を受けた。
- C社の経営環境やバリューチェーン分析の結果を考慮すると,①ある活動については,C社基幹システムの機能をERPの標準機能に置き換えてよいかを慎重に検討すべきである。
- 表2中の,②ある機能は,C社の経営環境における営業員以外の課題の解決にも役立てることができるので,活用を検討すべきである。
D課長はCIOの指摘を踏まえて,次期情報システム戦略と計画を修正した。
設問1
〔バリューチェーン〕について,本文中のa,本文中及び図1中のbに入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。
a,b に関する解答群
- 売上
- 価値
- キャッシュ
- 顧客満足
- 差別化
- 製品
- マージン
解答入力欄
- a:
- b:
解答例・解答の要点
- a:イ
- b:キ
解説
バリューチェーンとは、マイケル・ポーターの競争戦略の中で提唱されたフレームワークで、事業活動を価値創造活動の集合と捉え、製品の付加価値がどの部分(機能)で生み出されているかを分析し、その価値の連鎖を最適化するためのフレームワークです。業務を「購買物流」「製造」「出荷物流」「販売・マーケティング」「サービス」という5つの主活動と、「調達」「技術開発」「人事・労務管理」「全般管理」の4つの支援活動に分類して、主活動の効率を上げることで他企業との競争優位を確立しようとします。〔aについて〕
バリューチェーン分析は、製品やサービスの価値が企業のどの活動により生み出されているかを分析し、業務プロセスの強み・弱みを明らかにすることを目的としたフレームワークです。したがって[a]には「価値」が当てはまります。
∴a=イ:価値
〔bについて〕
価値を生み出すためにはコストが発生します。そのため、生み出した価値が全て利益となる訳ではありません。バリューチェーン分析では、総価値から価値を生み出す活動の総コストを引いたものがマージン(利益・利幅)です。すなわち、利益を高めるためには、企業活動でより多くの価値を作り出すか、価値を生み出すのに必要なコストを削減するべきと考えます。したがって[b]には「マージン」が当てはまります。
∴b=キ:マージン
バリューチェーン分析は、製品やサービスの価値が企業のどの活動により生み出されているかを分析し、業務プロセスの強み・弱みを明らかにすることを目的としたフレームワークです。したがって[a]には「価値」が当てはまります。
∴a=イ:価値
〔bについて〕
価値を生み出すためにはコストが発生します。そのため、生み出した価値が全て利益となる訳ではありません。バリューチェーン分析では、総価値から価値を生み出す活動の総コストを引いたものがマージン(利益・利幅)です。すなわち、利益を高めるためには、企業活動でより多くの価値を作り出すか、価値を生み出すのに必要なコストを削減するべきと考えます。したがって[b]には「マージン」が当てはまります。
∴b=キ:マージン
設問2
〔C社の強みと弱み〕について,(1),(2)に答えよ。
- 表1中のcに入れるC社の強みを,その理由を含めて40字以内で述べよ。
- 本文中のdに入れる適切な字句を,図1中の用語で答えよ。
解答入力欄
- c:
- d:
解答例・解答の要点
- c:顧客の工場の近くに自社の工場があるので,配送時間が短くて済む (30文字)
- d:販売・マーケティング
解説
- 〔cについて〕
出荷物流活動に関するC社の強みが入ります。
〔C社の経営環境〕から出荷物流に関する内容を探すと、「競合他社はアジア地域に工場を設置しているケースが多いのに対し,C社は国内外を問わず顧客の工場の近くに自社の工場を設置している」という記述があります。顧客の工場は国内および世界の各地域に設置されているので、C社は、アジア地域に工場を設置している競合他社と比較して顧客の工場にアクセスがしやすい環境にあります。この点が、出荷物流について具体的にどのようなメリットになるかを考えると、短い配送時間で納品できるということが言えます。
設問では「C社の強みを,その理由を含めて」という条件があるので、強み「配送時間が短いこと」、理由「顧客の工場の近くに自社の工場を設置しているから」を合わせて、「顧客の工場の近くに自社の工場を設置しているため、配送時間が短い」旨の解答が適切となります。
∴c=顧客の工場の近くに自社の工場があるので,配送時間が短くて済む - 〔dについて〕
C社にとって弱みであり、新製品を市場投入する際に重要な活動が入ります。字句は図1中の用語から選択する必要があります。
〔C社の経営環境〕を見ると「これまでは,顧客からの引合いに対応することで製品を受注できたので,販売・マーケティングにはあまり力を入れてこなかった。しかし,新たな製品を市場に投入する際には,その特長を顧客に理解してもらう必要があり,現状では不十分である」という記述があります。つまり、逆説的に言えば、新製品を市場投入する際には、販売・マーケティングに力を入れる必要があるということになります。また経営環境全体を通してみても、「非効率な営業になっている」等の記述からC社は営業活動に弱みを多く抱えているということが伺えます。したがって[d]には「販売・マーケティング」が当てはまります。
∴d=販売・マーケティング
設問3
〔次期情報システム戦略と計画〕について,(1)~(4)に答えよ。
g に関する解答群
- CMDB
- ETL
- OLAP
- データマイニング
解答入力欄
- e:
- f:
- g:
- 活動:
- 理由:
解答例・解答の要点
- e:運用・保守に掛かる労力 (11文字)
- f:AIなどの最新のデジタル技術の早期習得 (19文字)
- g:イ
- 活動:製造
- 理由:
ERPの標準機能への置換えで各工場の競争優位性を失うリスクがあるから (34文字)
- 3
解説
- 「SaaSのERPを導入し、カスタマイズは最小限にして極力標準機能を使用する」ことによって、何(=空欄e)を削減し、現在できていない何(=空欄f)を行うのかについて問われています。どちらも本文中の字句で解答する必要があります。
SaaS(Software as a Service)とは、クラウドコンピューティングの一形態で、専門の事業者が運用するサービスをネットワーク(インターネット)経由で利用するものです。自分の組織でシステムを構築し、保守・運用する場合と比べて、時間と費用を大幅に節約することができます。そしてERP(EnterPrise Resource Planning)パッケージは、企業全体の経営資源を有効かつ総合的に計画・管理し、経営の効率化を図るための統合型(業務横断型)ソフトウェアです。
〔eについて〕
〔C社の経営環境〕を見ると「C社基幹システムは,個別に開発・運用・保守をしているので,データが統合されていない。C社基幹システムの構造は複雑化しており,情報システム部ではこの運用・保守に掛かる労力が増加している」という課題があることがわかります。
SaaSのERPを導入すると、C社基幹システムのデータの統合がされるとともに、運用・保守がSaaS事業者側で行われることになります。極力標準機能を使用するようにすればカスタマイズ部分に係る運用・保守費用の発生も抑えられます。これにより、情報システム部で課題となっていたC社基幹システムの「運用・保守に掛かる労力」の削減が期待できます。
∴e=運用・保守に掛かる労力
〔fについて〕
〔C社の経営環境〕を見ると「AIなどの最新のデジタル技術の早期習得が必要となってきているが,既存情報システムの運用・保守の業務に追われ手が回っていない」とあります。SaaSのERPの導入により、既存情報システムの運用・保守に掛かる労力が削減されれば、現在できていない「AIなどの最新デジタル技術の習得」を行うことができるようになります。
∴f=AIなどの最新のデジタル技術の早期習得 - 〔gについて〕
選択肢の各用語は次の意味を持ちます。- CMDB(Configuration Management Database)
- ITサービスを提供する上で必要な資産と構成を一元管理するデータベース
- ETL(Extract,Transform,Load)
- 業務システム等に蓄積されたデータを抽出(Extract)し、データウェアハウス等で利用しやすい形に加工(Transform)し、対象とするデータウェアハウス等のターゲットシステムに書き込み(Load)させるという一連の処理のこと。また、これら一連の処理を支援するソフトウェア機能
- OLAP(Online Analytical Processing)
- エンドユーザが直接データベースの検索・集計を行い、その中から問題点や課題を発見する分析型アプリケーションの概念及びそのシステム
- データマイニング
- 種々の解析手法を用いて大量のデータを分析し、隠れた関係性や意味を見つけ出す手法
∴g=イ:ETL - 〔C社の経営環境〕には「各工場で独自の製造ノウハウを多数もっており,各工場の業務プロセスや各工場に設置されている情報システムにこれらを反映させ,競争優位性を保っている」とあり、表1「C社の強み」の項番2に「独自のノウハウによって競争優位性を保っている」と記載があります。
ERPを導入すると、ERPが前提とする業務プロセスにC社の業務プロセスを合わせることになります。カスタマイズは最小限にして極力標準機能を使用するという方針なので、競争優位性の源泉となるC社の独自の製造ノウハウをERPに反映できない可能性があり、そうなるとこの強みが失われてしまうことになります。したがって、標準機能への置換えは慎重に検討する必要があります。
∴活動:製造
理由:ERPの標準機能への置換えで各工場の競争優位性を失うリスクがあるから - 〔C社の経営環境〕からSFAの機能と関連して営業員以外が抱えている課題を探すと、研究開発部が「営業員と顧客のやり取りにヒントとなる情報があるが,研究開発部には情報が届いていない」という課題を抱えていることがわかります。
表2を見ると、項番3"顧客対応管理"に「製品に対する顧客の意見など営業員が顧客から得た情報や、顧客への対応内容を記録し、情報共有を可能とする」とあるので、この機能を活用すれば営業員と顧客のやり取りを研究開発部門と共有できるようになると考えられます。
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