応用情報技術者過去問題 平成24年秋期 午後問1
⇄問題文と設問を画面2分割で開く⇱問題PDF問1 経営戦略
M&A戦略に関する次の記述を読んで,設問1~4に答えよ。
X社は,飲料事業を営む会社であり,発酵技術を基盤として発展してきた企業グループに属している。企業グループは,持株会社を親会社とし,酒類,飲料,化学品,医薬品のそれぞれを製造し,販売する四つの会社が,コアの事業会社である。
持株会社の経営陣は,今後の中長期戦略を検討した。その過程で,どの事業に投資するかを決めるために,商品や事業の市場における位置付けを分析する手法であるaを使って分析した。その結果,飲料事業に積極的に投資していく方針を決定し,飲料事業の拡大を早期に実現するために,飲料業界の他社とのM&Aの可能性をX社とともに検討した。そして,合併の候補先を数社挙げ,その中から合併の効果が最も高いと見込めるY社を選定した。
〔合併効果の検討〕
X社及び持株会社の経営陣は,まずX,Y両社の分析を行った。
合併効果を更に詳細に検討した結果,マイナス要素もあるがプラス要素が非常に大きいので,X社及び持株会社の経営陣は,Y社との合併を進めることを決定した。
〔合併方法の検討〕
当初,X社及び持株会社の経営陣は,M&Aの方法として③TOBを検討していたが,Y社の経営陣と話し合った結果,Y社を吸収合併することにした。Y社との基本合意後,④詳細な企業情報の入手,既開示データの信ぴょう性の確認,未開示又は未認識リスクの確認,買収額算定のための基礎情報収集などを行ってY社の状況を調査した。その後,合併契約を締結し,合併時のX社の会計処理方法を図1のとおりとした。〔会計処理の実施〕
合併前のX社とY社の貸借対照表とその他の必要情報は,表1と表2のとおりであった。 この情報に基づいて,表3のとおり企業価値を算定した。 さらに,合併比率0.8を算定し,交付株式数を算出した結果,交付株式数はd株となった。
また,Y社の資産の時価,負債の時価及び純資産の時価を基に,"のれん"を計上し,パーチェス法による会計処理を行った。その結果,合併後のX社の貸借対照表は,表4のとおりとなった。
X社は,飲料事業を営む会社であり,発酵技術を基盤として発展してきた企業グループに属している。企業グループは,持株会社を親会社とし,酒類,飲料,化学品,医薬品のそれぞれを製造し,販売する四つの会社が,コアの事業会社である。
持株会社の経営陣は,今後の中長期戦略を検討した。その過程で,どの事業に投資するかを決めるために,商品や事業の市場における位置付けを分析する手法であるaを使って分析した。その結果,飲料事業に積極的に投資していく方針を決定し,飲料事業の拡大を早期に実現するために,飲料業界の他社とのM&Aの可能性をX社とともに検討した。そして,合併の候補先を数社挙げ,その中から合併の効果が最も高いと見込めるY社を選定した。
〔合併効果の検討〕
X社及び持株会社の経営陣は,まずX,Y両社の分析を行った。
- X社の分析
お茶,コーヒー,炭酸飲料を製造し,販売している。東日本の流通チャネルに強みがあるが,西日本では弱い。乳酸菌飲料や健康飲料はもっていない。 - Y社の分析
乳酸菌飲料から発展してきた飲料メーカーで,お茶,乳酸菌飲料,健康飲料を製造し,販売している。全国展開しており,特に西日本の流通チャネルに強みがある。健康飲料の売上が好調である。最近,新商品を発表したお茶の販売に注力している。
合併効果を更に詳細に検討した結果,マイナス要素もあるがプラス要素が非常に大きいので,X社及び持株会社の経営陣は,Y社との合併を進めることを決定した。
〔合併方法の検討〕
当初,X社及び持株会社の経営陣は,M&Aの方法として③TOBを検討していたが,Y社の経営陣と話し合った結果,Y社を吸収合併することにした。Y社との基本合意後,④詳細な企業情報の入手,既開示データの信ぴょう性の確認,未開示又は未認識リスクの確認,買収額算定のための基礎情報収集などを行ってY社の状況を調査した。その後,合併契約を締結し,合併時のX社の会計処理方法を図1のとおりとした。〔会計処理の実施〕
合併前のX社とY社の貸借対照表とその他の必要情報は,表1と表2のとおりであった。 この情報に基づいて,表3のとおり企業価値を算定した。 さらに,合併比率0.8を算定し,交付株式数を算出した結果,交付株式数はd株となった。
また,Y社の資産の時価,負債の時価及び純資産の時価を基に,"のれん"を計上し,パーチェス法による会計処理を行った。その結果,合併後のX社の貸借対照表は,表4のとおりとなった。
設問1
本文中のaに入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。
a に関する解答群
- PPM
- TQM
- バランススコアカード
- バリューチェーン
- パレート図
解答入力欄
- a:
解答例・解答の要点
- a:ア
解説
〔aについて〕
プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)は、縦軸と横軸に「市場成長率」と「市場占有率」を設定したマトリックス図を4つの象限に区分し,製品や事業の市場における位置付けを分析して資源配分を検討する手法です。この考え方を事業分析に適用したフレームワークを事業ポートフォリオといいます。本文中で「商品や事業の市場における位置付けを分析する手法」とあるのでPPMであると判断できます。
∴a=ア:PPM
その他の用語については次の通りです。
プロダクトポートフォリオマネジメント(PPM)は、縦軸と横軸に「市場成長率」と「市場占有率」を設定したマトリックス図を4つの象限に区分し,製品や事業の市場における位置付けを分析して資源配分を検討する手法です。この考え方を事業分析に適用したフレームワークを事業ポートフォリオといいます。本文中で「商品や事業の市場における位置付けを分析する手法」とあるのでPPMであると判断できます。
∴a=ア:PPM
その他の用語については次の通りです。
- TQM(Total Quality Management)
- TQC(Total Quality Control)で提唱された統一された品質管理目標を経営戦略に対して適用した考え方
- バランススコアカード
- 企業のビジョンと戦略を実現するために、「財務」「顧客」「内部ビジネスプロセス」「学習と成長」という4つの視点から業績を評価・分析する手法
- バリューチェーン
- 製品の付加価値がどの部分(機能)で生み出されているかを分析する手法
- パレート図
- 値の大きい順に分析対象の項目を並べた棒グラフと、累積構成比を表す折れ線グラフを組み合わせた複合グラフで、複数の分析対象の中から重要な要素を識別するために使用する
設問2
〔合併効果の検討)について,(1),(2)に答えよ。
解答入力欄
解答例・解答の要点
- 乳酸菌飲料や健康飲料が加わることによる製品群の充実 (25文字)
- お茶の販売が社内で競合する (13文字)
解説
- 範囲の経済性とは、共通の生産設備を使って生産する製品の種類を増やしたり、同一の顧客に提供する商品範囲を広げたりすることで、1個当たりにかかる固定費を節減しながら収入を増やせることをいいます。
分析結果によると、X社は乳酸菌飲料や健康飲料は持っておらず、Y社ではこれらを製造し、販売しています。合併により、今まで取り扱いのなかった製品群が製品ラインナップに加わることが範囲の経済性の効果と捉えることができます。
∴乳酸菌飲料や健康飲料が加わることによる製品群の充実 - カニバリゼーション(cannibalization)とは、直訳すれば「共食い」という意味です。市場で自社製品同士による競合が発生し、シェアを奪い合う現象を、生物学上の共食いに例えて表現したものです。
本問では、X社とY社それぞれで、お茶の製造・販売を行っています。合併して一つの会社となった場合、お茶の販売について競合が発生し、同一企業内でシェアを奪い合うことが予想されます。
∴お茶の販売が社内で競合する
設問3
〔合併方法の検討〕について,(1),(2)に答えよ。
(1) に関する解答群
- 企業内部で経営に携わっている経営者が,企業の所有者から株式などを買い取り,経営権を取得すること
- 契約によって共同研究や販売協力を行うこと
- 特定企業の支配権の取得又は拡大を目的として,一定期間内に一定の価格で買い取ることを公示して,大量の株式を取得すること
- 買収対象企業の資産又は将来キャッシュフローを担保に資金を調達して買収すること
(2) に関する解答群
- 3C分析
- PDPC
- 市場調査
- デューディリジェンス
- ビジネスインパクト分析
解答入力欄
解答例・解答の要点
- ウ
- エ
解説
- TOB(TakeOver Bid,公開株式買付け)は、ある株式会社の株式等の買付けで「買付け期間・買取り株数・価格」を公告し、不特定多数の株主から株式市場外で株式等を買い集める制度のことです。別の企業の株式を50%以上保有するとその企業の議決権を支配できるため、主に企業の経営権を取得する目的で行われます。
- MBO(Management Buyout)の説明です。
- アライアンスの説明です。
- 正しい。TOBの説明です。
- LBO(Leveraged Buyout)の説明です。
- デューディリジェンス(Due diligence)は、M&Aにおいて買収先企業の資産価値やリスクを調査することを言います。財務は当然として、取り扱っている商品・サービスやビジネスモデル、社内の人的資源、法務、税務、IT対応などの様々な側面から分析を行います。
- 3C分析は、マーケティング分析に必要不可欠な3要素である、顧客(Customer)、自社(Company)、競合他社(Competitor)について自社の置かれている状況を分析する手法です。
- PDPC(Process Decision Program Chart)は、ある計画における目的達成のためにあらゆる事態を事前に想定し、計画の開始から最終結果に至る過程や手順を時間の推移に従って矢印で結合した図です。望ましい結果を得るための最適ルートを分析するために役立ちます。
- 市場調査とは、これから製品やサービスを売ろうとしているターゲットセグメントについて、その市場規模や市場ニーズを調査することです。
- 正しい。
- ビジネスインパクト分析は、障害や災害によりシステムが停止した場合の事業への影響を評価する分析手法です。
設問4
本文及び表中のb~eに入れる適切な数値を答えよ。
解答入力欄
- b:
- c:
- d:
- e:
解答例・解答の要点
- b:300
- c:420
- d:1,440,000
- e:60
解説
図1の会計処理方法に従って計算していきます。〔bについて〕
純資産額法による企業価値は「資産の時価-負債の時価」で求めます。表2よりY社の資産の時価は500億円、負債の時価は200億円とわかるので、
500-200=300(億円)
∴b=300
〔cについて〕
収益還元価値法による企業価値は「株主資本×平均株主資本利益率÷資本還元率」で求めます。図1の説明より、「株主資本=純資産額法による企業価値」、「資本還元率=同種企業平均の平均株主資本利益率」であることがわかります。
Y社について上記を整理すると下記のようになります。
300×14%÷11%=420(億円)
∴c=420
〔dについて〕
交付株式数は「Y社の発行済株式総数×合併比率」で決まります。表2よりY社の波高済株式数は1,800,000株、本文に「合併比率0.8」とあることから、
1,800,000×0.8=1,440,000(株)
∴d=1,440,000
〔eについて〕
"のれん"は、①吸収合併の際の取得価格と、②吸収される企業の純資産の時価(資産の時価-負債の時価)に相違がある場合に計上する勘定科目です。①>②であれば、その差額を"のれん"として資産計上し、①<②であれば、その差額を"負ののれん"として負債計上します。例えば、純資産額法による企業価値が100で取得価格が150であれば、"のれん"の簿価は50となります。
図1より、企業価値は折衷法を用い、
企業価値=(純資産額法による企業価値+収益還元価値法による企業価値)÷2
で求めるとしています。Y社の純資産額法による企業価値は(b)300億円、収益還元価値法による企業価値は(c)420億円ですから、折衷法によるY社の企業価値は、
(300+420)÷2=360(億円)
この金額が取得金額となります。Y社の純資産の時価は300億円ですが、買収後は取得金額の360億円でX社の純資産に計上されます。「取得金額>純資産額法による企業価値」ですから、差額の60億円を"のれん"として計上することになります。∴e=60
純資産額法による企業価値は「資産の時価-負債の時価」で求めます。表2よりY社の資産の時価は500億円、負債の時価は200億円とわかるので、
500-200=300(億円)
∴b=300
〔cについて〕
収益還元価値法による企業価値は「株主資本×平均株主資本利益率÷資本還元率」で求めます。図1の説明より、「株主資本=純資産額法による企業価値」、「資本還元率=同種企業平均の平均株主資本利益率」であることがわかります。
Y社について上記を整理すると下記のようになります。
- 株主資本=純資産額法による企業価値=(b)300億円
- 平均株主資本利益率=14%
- 資本還元率=同種企業平均の平均株主資本利益率=10%
300×14%÷11%=420(億円)
∴c=420
〔dについて〕
交付株式数は「Y社の発行済株式総数×合併比率」で決まります。表2よりY社の波高済株式数は1,800,000株、本文に「合併比率0.8」とあることから、
1,800,000×0.8=1,440,000(株)
∴d=1,440,000
〔eについて〕
"のれん"は、①吸収合併の際の取得価格と、②吸収される企業の純資産の時価(資産の時価-負債の時価)に相違がある場合に計上する勘定科目です。①>②であれば、その差額を"のれん"として資産計上し、①<②であれば、その差額を"負ののれん"として負債計上します。例えば、純資産額法による企業価値が100で取得価格が150であれば、"のれん"の簿価は50となります。
図1より、企業価値は折衷法を用い、
企業価値=(純資産額法による企業価値+収益還元価値法による企業価値)÷2
で求めるとしています。Y社の純資産額法による企業価値は(b)300億円、収益還元価値法による企業価値は(c)420億円ですから、折衷法によるY社の企業価値は、
(300+420)÷2=360(億円)
この金額が取得金額となります。Y社の純資産の時価は300億円ですが、買収後は取得金額の360億円でX社の純資産に計上されます。「取得金額>純資産額法による企業価値」ですから、差額の60億円を"のれん"として計上することになります。∴e=60