応用情報技術者過去問題 平成25年秋期 午後問9

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問9 プロジェクトマネジメント

プロジェクトの人的資源管理に関する次の記述を読んで,設問1,2に答えよ。

 D社は,首都圏近郊の不動産会社と提携して,不動産情報サイトを運営している不動産情報サービス会社である。D社は,一般利用者向けのサービス向上を狙いとして,地図情報サービスとの連携対応,スマートフォン対応などの開発を,半年前から行っている。
 今回,提携先における不動産情報登録業務の利便性と情報鮮度の向上を図ることにした。同業務に必要な画面の大きさと携帯性を併せもつ,カメラ付きのタブレット型PC(以下,タブレットという)から,写真を含む物件情報の登録・更新を行う機能を追加開発するプロジェクト(以下,追加開発プロジェクトという)を立ち上げた。追加開発プロジェクトは,提携先からの強い要望によって,6か月での完了が必須となっている。また,投入できるコストや人員も限られている。プロジェクトマネージャに任命された開発部のE主任は,追加開発プロジェクトの人的資源計画の策定に着手した。

〔プロジェクトメンバーの要求〕
 E主任は,追加開発プロジェクトで重要となるスキルを次のように列挙した。
  • 不動産会社における,物件情報の収集と登録・更新の業務知識
  • タブレット特有の操作や入出力などのユーザインタフェース(以下,UIという)設計のノウハウ
  • 最近実用段階に入った,Webアプリケーションによるカメラ制御と写真取込み機能(以下,Webアプリによるカメラ制御という)の実装方法や制約などの知識
 E主任は,追加開発プロジェクトのスケジュールを作成し,工数を見積もり,これらのスキル要件を加味したメンバーの選定依頼を,開発部の要員調整会議に提出した。

〔メンバーの選定と追加開発プロジェクトへの指示〕
 要員調整会議を踏まえた社内外との調整の結果,E主任の指定したそれぞれの重要スキルを保有した,次のメンバーが選定された。
  • 営業部Fさん:不動産会社から転職してきたベテランの営業員で,物件オーナから様々な情報を聞き出すのが得意である。また,情報の登録・更新の業務にも詳しい。ただし,システム開発に携わった経験はなく,追加開発プロジェクトで予定している成果物を作成した経験もない。
  • 社外の技術者N氏:現在行っているスマートフォン対応の開発に,ソフトハウスM社のリーダーとして参画して,高い評価を得ている技術者である。業種は異なるが,他社でのタブレット対応の実績がある。ただし,スマートフォン対応の開発との兼務になるので,担当することができるのは,成果物のレビューや参考資料作成などの支援的な作業に限られる。
  • 開発部G君:開発部の若手プログラマで,最新の技術動向に詳しい。インターネット上の有用な情報を収集して,新しい技術を社内のシステムに取り込んだ実績が多数ある。
 また,開発部の中堅SEであるH君もメンバーとして選定された。H君は,PC画面であれば,UI設計に精通しているので,外部設計を1人で期限内に何とか完了できる。しかし,タブレットUI設計については,H君を含め,社内にノウハウをもつ者はいない。
 写真入力画面以外の内部設計・製造・テスト(以下,開発1という)は,請負契約でM社に発注することが決定し,責任者はN氏となる予定である。Webアプリによるカメラ制御は,D社では利用した実績がない。D社と取引のあるベンダ各社にも利用実績がないので,写真入力画面と,サーバに送付した画像を他の画面から参照するためのAPIの開発(以下,開発2という)は,社内で行うことにした。
 なお,要員の選定の際に,追加開発プロジェクトに次の指示が与えられた。
  • 利用実績がない技術に対しては,相応の準備工程を置いて,実現性を担保すること
  • 近々発足する複数のプロジェクトでタブレット対応が予定されているので,それらのプロジェクトで活用できるような成果を社内に残すこと
〔工程とスケジュールの考慮〕
 E主任が,N氏に,外部設計準備として,①タブレットUI設計標準の作成を打診したところ,"他社でタブレット対応を行った際は,設計標準がなく,2か月間試行錯誤を重ねて苦労した。今回はそのノウハウがあるので,スマートフォン対応向けに作成した資料をタブレット対応向けに書き直すことで作成可能である。"との回答を得た。E主任は,タブレットUI設計標準の作成に加えて,外部設計におけるUIに関するレビュー,及びH君への支援もN氏に依頼することにした。
 Webアプリによるカメラ制御は,追加開発プロジェクトの鍵になる技術である。D社で利用した実績がないので,E主任は,開発準備の工程を追加してG君に②ある作業を割り当て,外部設計開始直後から作業させることにした。E主任は,これらの検討結果を,図1のスケジュールに反映させた。
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〔責任分担の整理〕
 D社では,中規模・小規模のシステム開発を複数並行して進めることが多い。プロジェクトのメンバーは,開発部員と社内の他部門や社外要員との混成になることが多く,上下関係が役職と逆転する体制になる場合もある。そのような状況を踏まえて,開発部では,プロジェクトの作業ごとの役割,責任,権限レベルを明示するために,責任分担マトリックスの一種であるRACIチャートの作成を必須としている。
 なお,D社では,PMBOKを参考に,プロジェクトでの実用性を考慮し,RACIの略号を次のように定義し直している。
R (Responsible)実行責任:
作業を実際に行い,成果物などを作成する。
A (Accountable)説明責任:
作業を計画し,作業の進捗や成果物の品質を管理し,作業の結果に責任を負う。
C (Consult)相談対応:
作業に直接携わらないが作業の遂行に役立つ助言や支援,補助的な作業を行う。
I (Inform)情報提供:
作業の結果,進捗の状況,他の作業のために必要な情報などの,情報の提供を受ける。
 これまでの検討結果を基に,E主任は表1のRACIチャートを作成した。
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 E主任は,メンバー全員を集めた追加開発プロジェクトのキックオフ会議を開催し,表1のRACIチャートを使って,各工程の作業内容と責任分担を全員に説明した。

設問1

〔工程とスケジュールの考慮〕について,(1)~(3)に答えよ。
  • E主任は,本文中の下線①の資料を作成することによって,外部設計の工程で懸念される問題を回避しようと考えた。その問題とは何か。30字以内で述べよ。
  • E主任が,N氏に,本文中の下線①の資料の作成を依頼したのは,外部設計を行うため以外にもう一つ,追加開発プロジェクトに与えられた指示に対応するための狙いがある。それは何か。30字以内で述べよ。
  • 本文中の下線②はどのような作業か,30字以内で述べよ。

解答入力欄

解答例・解答の要点

    • タブレットUI設計のノウハウ不足による遅延が発生する (26文字)
    • タブレットUI設計のノウハウを,文書として残す (23文字)
    • Webアプリによるカメラ制御の実現性の調査 (21文字)
  • 解説

    • 外部設計工程上の問題点について解答する設問です。

      本プロジェクトでは、プロジェクトで重要となるスキルとして「タブレット特有の操作や入出力などのユーザインタフェース(以下,UIという)設計のノウハウ」が挙げられているにもかかわらず、「タブレットUI設計については,H君を含め,社内にノウハウをもつ者はいない」と記述されています。この記述より、タブレットUI設計については設計ノウハウがない状態だということがわかります。

      また、下線①を含む一文を確認すると「タブレットUI設計標準の作成を打診したところ,"他社でタブレット対応を行った際は,設計標準がなく,2か月間試行錯誤を重ねて苦労した。…」という専門家の経験が記載されています。

      この2つの記述から、設計標準がないままD社が外部設計を行った場合、タブレット特有のUI設計に苦労し、外部設計がスケジュール通りに進まないリスクがあることがわかります。本プロジェクトは6カ月での完了が必須となっていますのでスケジュールの遅延は許されません。E主任はタブレットUI設計のノウハウがないことで設計作業が遅延することを懸念して、N氏にタブレットUI設計標準の作成を打診したものと判断できます。

      プロジェクトの問題について問う設問については、プロジェクトのQ・C・Dに対してどのような影響をあるかという視点で捉えると、的確な解答にたどり着きやすいでしょう。

      ∴タブレットUI設計のノウハウ不足による遅延が発生する

    • 設計標準を作成する目的について解答する設問です。

      設問文に「下線①の資料の作成を依頼したのは,…追加開発プロジェクトに与えられた指示に対応するための狙いがある」とあります。この指示とは〔メンバーの選定と追加開発プロジェクトへの指示〕に記載されている「近々発足する複数のプロジェクトでタブレット対応が予定されているので,それらのプロジェクトで活用できるような成果を社内に残すこと」です。

      前述した通り、D社内にはタブレットUI設計についての設計ノウハウがありません。そこで今回の開発を通して得たタブレットUI設計についての知見を、設計標準として文書化し、組織のプロセス資産として残すことで、近々発足する複数のプロジェクトに活かそうとしたと判断できます。

      ∴タブレットUI設計のノウハウを,文書として残す

    • 下線②の作業について解答する設問です。

      下線②を含む一文を確認すると、「(Webカメラによるカメラ制御は)D社で利用した実績がないので,E主任は,開発準備の工程を追加してG君にある作業を割り当て,外部設計開始直後から作業させることにした」とあります。また、利用実績がない技術に関するプロジェクトの指示として「利用実績がない技術に対しては,相応の準備工程を置いて,実現性を担保すること」と記述されています。

      これらの記述から、今回、追加開発プロジェクトではじめて扱う「Webアプリによるカメラ制御」については、相応の準備工程を置いて実現性を担保することが要求されていることがわかります。

      そのため、E主任は実現性を担保するための方策として、開発2の開始前に準備期間を設け、G君に「Webアプリによるカメラ制御」の実装方法や制約についての調査を指示したものと考えられます。G君は、最新の技術動向に詳しく、新しい技術を社内に取り込んだ実績が多数あるのでこの役に適任です。

      ∴Webアプリによるカメラ制御の実現性の調査

    設問2

    〔責任分担の整理〕について,(1)~(3)に答えよ。
    • 表1中のに入れる適切な略号を,それぞれR,A,C,Iの中から一つ選び,答えよ。ただし,該当するものがない場合は"-"と答えよ。
    • 表1の分担の作業に対し,現状では明らかにスキルが不足しており,その対応策がまだ講じられていないメンバーは誰か。また,不足しているスキルは何か。それぞれ本文,又は表中の呼び名と字句を用いて答えよ。
    • "外部設計"工程でのN氏の作業について,D社はM社とどのような形態の契約を締結すべきか。表1の分担を参考に解答群の中から選び,記号で答えよ。
    解答群
    • 開発1の請負契約とは別の請負契約
    • 開発1の請負契約に含める
    • 準委任契約
    • 派遣契約

    解答入力欄

      • ア:
      • イ:
      • ウ:
      • メンバー:
      • スキル:

    解答例・解答の要点

    • ア:A
    • イ:I
    • ウ:R
    • メンバー:Fさん
    • スキル:業務フロー作成
  • 解説

    • RACIとは、プロジェクトにおいてチームメンバーに役割分担させる際に使用される考え方です。RACIにおいて使用される役割については問題文の〔責任分担の整理〕に以下のように記述されています。
      R(Responsible)実行責任:
      作業を実際に行い,成果物などを作成する。
      A(Accountable)説明責任:
      作業を計画し,作業の進捗や成果物の品質を管理し,作業の結果に責任を負う。
      C(Consult)相談対応:
      作業に直接携わらないが作業の遂行に役立つ助言や支援,補助的な作業を行う。
      I(Inform)情報提供:
      作業の結果,進捗の状況,他の作業のために必要な情報などの,情報の提供を受ける。
      この分類に準じて、各空欄に当てはまる略号(R, A, C, I)を解答します。

      について〕
      開発2におけるE主任の役割が入ります。
      問題前文に「プロジェクトマネージャに任命された開発部のE主任は,追加開発プロジェクトの人的資源計画の策定に着手した」と記載されている通り、E主任はプロジェクトマネージャです。開発2はD社内で行われる開発ですから、プロジェクトマネージャであるE主任がプロジェクト目標の達成に責任を負う立場から進捗や品質を管理します。よって、[ア]には「A」が入ります。

      =A

      について〕
      開発2におけるN氏の役割を解答します。
      N氏については〔メンバーの選定と追加開発プロジェクトへの指示〕に、
      • スマートフォン対応の開発との兼務になるので,担当することができるのは,成果物のレビューや参考資料作成などの支援的な作業に限られる。
      • 写真入力画面以外の内部設計・製造・テスト(以下,開発1という)は,請負契約でM社に発注することが決定し,責任者はN氏となる予定である
      と記載されています。実際に表1のRACIチャートでも開発1の「A(説明責任)」が与えられているのはN氏となっています。

      開発1は請負契約、開発2は自社開発ですから開発チームが異なり、またN氏はただでさえ他のプロジェクトとの兼務ですので、N氏に別チームである開発2の作業を担当させるのは現実的ではありません。この点より、R・A・Cは除外できます。

      残るIと-の判断ですが、2つの開発は同一プロジェクト内で実施されているので、連携して進めていかなければならないこともあります。本問ではD社で「画像を他の画面から参照するためのAPIの開発」を行うことになっていますが、このAPIの仕様などがこれに該当します。このAPIの仕様や開発状況によっては開発1が影響を受けることがあるので、開発1の責任者たるN氏と情報を共有しておく必要があります。よって、[イ]には「I」が入ります。

      なお、一般的なプロジェクトマネジメントにおいても、RACIにおけるInform(情報提供)には、負担を少なくするべき要員をアサインする傾向にあります。

      =I

      について〕
      開発2におけるG君の役割を解答します。
      表1の開発2に関する行を確認するとG君以外の他の要員については「-」と記載されており、E主任とN氏も実際の開発作業は行わないので、プログラマであるG君がAPI等の開発を行うことが判断できます。作業を実際に行う者の責任分担は「R」なので、[ウ]には「R」が入ります。

      =R

    • アサインされている役割に対して、スキルが不足しているメンバーについて解答する設問です。

      プロジェクトメンバーの能力とRACIチャートの責任分担を比べてミスマッチになっている場所を探すと、メンバーのうちFさんは「システム開発に携わった経験はなく,追加開発プロジェクトで予定している成果物を作成した経験もない」と記述されている一方、RACIチャートではFさんに「業務フロー作成」の実行責任(R)が与えていることに気付きます。Fさんはシステム開発に関するスキルを有しておらず、当該成果物の作成経験もないので明らかに役割に対してスキル不足です。この状況に対して、対策が講じられているという記述も問題文中にないので、この箇所が解答ポイントとなります。

      ∴メンバー:Fさん
       スキル:業務フロー作成

      なお、G君については準備期間を設け、H君にはタブレットUI設計標準を用意するという対策を講じているので本問の解答としては適切ではありません。

    • 設問で要求されているのは「"外部設計"工程でのN氏の作業」なので、表1で確認すると、外部設計におけるN氏の役割はC(相談対応)だとわかります。C(相談対応)の説明としては〔責任分担の整理〕に「作業に直接携わらないが作業の遂行に役立つ助言や支援,補助的な作業を行う」と記述されています。

      ある特定の事務の遂行を委託することを法律用語で「委任」と言います。委託する事務が契約等の法律行為である場合は委任、法律行為以外の事務の委託は準委任となります。N氏には助言・支援等の事務を委託することになるので、「準委任契約」が適切です。

      請負契約は成果物の完成を目的とする契約なので成果物の発生しない今回のケースでは不適切、派遣契約は派遣先の指示で業務に従事するため、今回のケースで派遣契約を結んでしまうとN氏の作業自由度が失われるので不適切です。

      ∴ウ:準委任契約
    問9成績

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