応用情報技術者過去問題 平成27年秋期 午後問9
⇄問題文と設問を画面2分割で開く⇱問題PDF問9 プロジェクトマネジメント
ソフトウェア開発プロジェクトのスコープ管理に関する次の記述を読んで,設問1~3に答えよ。
C社は,電気製品の販売会社であり,複数の販売店を運営している。C社では,商品の仕入れや販売など,C社の店頭での販売業務を支援する販売システムを導入している。商品の在庫が店頭にない場合は,顧客は商品を予約することができる。予約後に入荷した商品は,顧客が来店して持ち帰る場合と,販売店から顧客の住所へ発送する場合がある。販売員が,予約された商品の管理のために予約台帳を作成しているが,手作業によるミスが多発していた。C社では,次年度に大型店舗の新規開店と販売員の増強を予定しており,予約件数の大幅な増加が見込まれている。そこで,販売システムに,予約業務を支援する機能を新たに追加してミスを削減することにした。
追加開発プロジェクト(以下,プロジェクトという)が発足し,システム部のD君がプロジェクトマネージャに,利用者である販売管理部のE部長がプロジェクトオーナになった。システム部と販売管理部との協議の結果,追加開発の対象業務と主な機能,ファンクション数は表1のとおりとなった。ファンクション数とは,業務において利用者が利用できる画面や帳票の数である。システム部と販売管理部が,機能量を定量的に表す指標として,このファンクション数を用いることで合意している。 次年度の新規開店によって,システムのトランザクション件数の増加が見込まれるが,機能が追加された販売システムでは,現状の応答時間を維持する必要がある。また,追加機能は,予算の制約から,1,000万円以内で開発し,本年度末までに稼働する必要がある。D君が表1の機能の開発費用を見積もったところ,総額は750万円であった。D君は,E部長と相談し,開発費用の上限値を1,000万円とし,見積りとの差は,プロジェクト予備費に充てることにした。
〔スコープ管理計画の立案〕
D君は,プロジェクトの開始に当たり,スコープ管理計画を次の手順で立案した。
〔スコープ変更の手続〕
D君は,スコープ変更の手続を,図1のように定義した。 利用者は,機能の追加・変更の内容と優先度を検討する。優先度は,必要度合いが高いものから低いものまでを3段階に分け,業務上必須のものを優先度"高",必須ではないものを優先度"低",中間を優先度"中"とする。変更申請の審議は,利用者,プロジェクトマネージャ,プロジェクトオーナが行う。審議においては,追加・変更の内容と優先度を確認して,優先度"高"のものは原則として開発対象とし,優先度が"中"や"低"のものは,プロジェクトへの影響を考慮して,開発対象とするか,しないかを決定する。
〔変更申請の発生と対応〕
プロジェクト開始後,販売管理部のF課長が,表2の内容の変更申請を行った。 変更申請の審議において,D君は,申請された機能が業務上必須であるかどうかを,F課長に再確認した。その結果,入荷連絡業務のメール送信機能は,現行のメールシステムで代用できるので,必須の機能とまでは言えないことが分かった。また,予約キャンセルは,顧客の依頼による場合と,商品入荷後も顧客が来店せず,引取り期限後に店側で予約キャンセルを判断する場合がある。これらの場合に,予約キャンセル業務の機能は必須となることが分かった。F課長が優先度を見直すことになり,変更申請は再審議されることになった。その後,D君は,表2の機能の開発費用を見積もり,表3の結果を得た。また,開発期間の見積りを行ったところ,開発期間は1か月で,開発要員を速やかに参加させれば,本年度末までに開発を完了できることが分かった。 D君は,表3の追加費用がプロジェクト予備費を上回るので,追加開発を極力減らしたいと考えた。そこで,予約キャンセル業務のための機能について,代替案の検討を行うことにし,F課長に検討を依頼した。すると,F課長から,検討結果として次の回答を得た。
C社は,電気製品の販売会社であり,複数の販売店を運営している。C社では,商品の仕入れや販売など,C社の店頭での販売業務を支援する販売システムを導入している。商品の在庫が店頭にない場合は,顧客は商品を予約することができる。予約後に入荷した商品は,顧客が来店して持ち帰る場合と,販売店から顧客の住所へ発送する場合がある。販売員が,予約された商品の管理のために予約台帳を作成しているが,手作業によるミスが多発していた。C社では,次年度に大型店舗の新規開店と販売員の増強を予定しており,予約件数の大幅な増加が見込まれている。そこで,販売システムに,予約業務を支援する機能を新たに追加してミスを削減することにした。
追加開発プロジェクト(以下,プロジェクトという)が発足し,システム部のD君がプロジェクトマネージャに,利用者である販売管理部のE部長がプロジェクトオーナになった。システム部と販売管理部との協議の結果,追加開発の対象業務と主な機能,ファンクション数は表1のとおりとなった。ファンクション数とは,業務において利用者が利用できる画面や帳票の数である。システム部と販売管理部が,機能量を定量的に表す指標として,このファンクション数を用いることで合意している。 次年度の新規開店によって,システムのトランザクション件数の増加が見込まれるが,機能が追加された販売システムでは,現状の応答時間を維持する必要がある。また,追加機能は,予算の制約から,1,000万円以内で開発し,本年度末までに稼働する必要がある。D君が表1の機能の開発費用を見積もったところ,総額は750万円であった。D君は,E部長と相談し,開発費用の上限値を1,000万円とし,見積りとの差は,プロジェクト予備費に充てることにした。
〔スコープ管理計画の立案〕
D君は,プロジェクトの開始に当たり,スコープ管理計画を次の手順で立案した。
- 実現すべき機能の一覧など,プロジェクトの成果物である機能追加された販売システムの特性や要求事項を収集し,aを作成する。
- ①機能要件の他に,プロジェクトが成功するために満たすべき条件をプロジェクト目標として定める。
- これらを基に,bを作成する。
- プロジェクト進行中に,表1以外の機能の追加・変更が発生した場合に備え,スコープ変更の手続を定める。
- プロジェクトにおいて必要な作業と成果物を定義し,cを作成する。
- 以上の内容に,プロジェクト管理のための②ベースラインの定義を加えてスコープ管理計画としてまとめ,E部長の承認を得る。
〔スコープ変更の手続〕
D君は,スコープ変更の手続を,図1のように定義した。 利用者は,機能の追加・変更の内容と優先度を検討する。優先度は,必要度合いが高いものから低いものまでを3段階に分け,業務上必須のものを優先度"高",必須ではないものを優先度"低",中間を優先度"中"とする。変更申請の審議は,利用者,プロジェクトマネージャ,プロジェクトオーナが行う。審議においては,追加・変更の内容と優先度を確認して,優先度"高"のものは原則として開発対象とし,優先度が"中"や"低"のものは,プロジェクトへの影響を考慮して,開発対象とするか,しないかを決定する。
〔変更申請の発生と対応〕
プロジェクト開始後,販売管理部のF課長が,表2の内容の変更申請を行った。 変更申請の審議において,D君は,申請された機能が業務上必須であるかどうかを,F課長に再確認した。その結果,入荷連絡業務のメール送信機能は,現行のメールシステムで代用できるので,必須の機能とまでは言えないことが分かった。また,予約キャンセルは,顧客の依頼による場合と,商品入荷後も顧客が来店せず,引取り期限後に店側で予約キャンセルを判断する場合がある。これらの場合に,予約キャンセル業務の機能は必須となることが分かった。F課長が優先度を見直すことになり,変更申請は再審議されることになった。その後,D君は,表2の機能の開発費用を見積もり,表3の結果を得た。また,開発期間の見積りを行ったところ,開発期間は1か月で,開発要員を速やかに参加させれば,本年度末までに開発を完了できることが分かった。 D君は,表3の追加費用がプロジェクト予備費を上回るので,追加開発を極力減らしたいと考えた。そこで,予約キャンセル業務のための機能について,代替案の検討を行うことにし,F課長に検討を依頼した。すると,F課長から,検討結果として次の回答を得た。
- 予約をキャンセルすると,その予約は一旦完了扱いとした上で,キャンセルされた予約の履歴データを保存する必要がある。指定予約キャンセル機能は,この予約履歴データ保存機能を含む。予約履歴データ保存機能を除けば,指定予約キャンセル機能は,表1の予約の完了機能によって代替できる。
- 引取り期限設定機能と期限切れ予約検索機能は,代替できる機能がない。
設問1
本文中の下線①のプロジェクト目標を具体的に三つ挙げ,それぞれ20字以内で述べよ。
解答入力欄
- ①:
- ②:
- ③:
解答例・解答の要点
- ①:本年度末までの稼働 (9文字)
- ②:現状の応答時間の維持 (10文字)
- ③:1,000万円以内の費用での開発 (16文字)
解説
販売システムの機能追加開発プロジェクトを題材に、スコープの定義、スコープ変更管理を含めたスコープ管理計画に関する知識が問われています。問題文中のスコープ変更の手続きについて記載された箇所が詳細かつ難解ですが、このような場合は、問題文中の記載をそのまま解答にできる可能性が高いのが例年の傾向です。本文にマークを付けるなどして、状況を整理しつつ粘り強く読み込んでください。
機能要件は表1に記載されていますので、その前後からプロジェクトが成功するために満たすべき条件になりそうな事項を探します。下線部分に「機能要件の他に」とありますので、機能以外に計画段階で決めるべきことを念頭に置くと、問われている「条件」を探しやすくなります。すなわち、非機能要件、費用、期間、要員計画などです。
本文中の「機能が追加された販売システムでは,①現状の応答時間を維持する必要がある。また,追加機能は,予算の制約から,②1,000万円以内で開発し,③本年度末までに稼働する必要がある」の記述にある3点がそれにあたります。
∴本年度末までの稼働
現状の応答時間の維持
1,000万円以内の費用での開発
機能要件は表1に記載されていますので、その前後からプロジェクトが成功するために満たすべき条件になりそうな事項を探します。下線部分に「機能要件の他に」とありますので、機能以外に計画段階で決めるべきことを念頭に置くと、問われている「条件」を探しやすくなります。すなわち、非機能要件、費用、期間、要員計画などです。
本文中の「機能が追加された販売システムでは,①現状の応答時間を維持する必要がある。また,追加機能は,予算の制約から,②1,000万円以内で開発し,③本年度末までに稼働する必要がある」の記述にある3点がそれにあたります。
∴本年度末までの稼働
現状の応答時間の維持
1,000万円以内の費用での開発
設問2
スコープ管理計画の立案について,(1),(2)に答えよ。
- 本文中のa~cに入れる適切な字句を解答群の中から選び,記号で答えよ。
- 本文中の下線②の承認を得る上で,システムの機能量全体の計画と実績の差異を定量的に管理するために,事前にE部長と合意すべきことは何か。30字以内で述べよ。
a,b,c に関する解答群
- WBS
- 開発見積書
- スコープ記述書
- 成果物記述書
- 責任分担
- 体制図
- プロジェクト大日程
- リスク定義書
- ワークパッケージ
解答入力欄
- a:
- b:
- c:
- o:
解答例・解答の要点
- a:エ
- b:ウ
- c:ア
- o:ファンクション数合計を機能量のベースラインにすること (26文字)
解説
- 〔aについて〕
プロジェクト計画段階で作成される成果物が解答群に並んでいます。このような設問では、消去法で選択肢を絞り込んでいく方法が有効です。本問で問われているのはスコープ管理なので、まず、計画段階のスコープ管理には関係ないか薄いものを除外します。コスト管理の「イ:開発見積書」、人的資源管理の「オ:責任分担」と「カ:体制図」、時間(スケジュール)管理の「キ:プロジェクト大日程」、リスク管理の「ク:リスク定義書」がそれで、どの空欄にも入りそうにありません。
次に、本文の順ではなく、わかりやすい空欄から埋めていきます。残った選択肢の中で最後に作成され、かつ、「プロジェクトにおいて必要な作業と成果物を定義」するものがcに入ります。これは「ア:WBS」です。bは、a、機能要件、プロジェクト目標を取りまとめた成果物になりますので、残った選択肢の中では、aが「エ:成果物記述書」、bが「ウ:スコープ記述書」となります。
ちなみにPMBOK第5版では、各用語はそれぞれ次のように定義されています。- 成果物記述書(PMBOKでは要求事項文書)
- 個々の要求事項がプロジェクトのビジネス・ニーズをどのように満たすかついて記述した文書
- スコープ記述書
- プロジェクトのスコープ、主要な成果物、前提条件や制約条件などを記述した文書
- WBS
- プロジェクト目標を達成し、必要な成果物を作成するために、プロジェクト・チームが実行する作業の全範囲を階層的に要素分解したもの
b=ウ:スコープ記述書
c=ア:WBS - 問題文に「システムの機能量全体の計画と実績の差異を定量的に管理するために」とありますので、まず、機能量とは何かを把握します。本文中に、「機能量を定量的に表す指標として,このファンクション数を用いることで合意している」と記載されていますので、機能量とはファンクション数のことであることがわかります。ファンクション数とは「業務において利用者が利用できる画面や帳票の数」であり、表1に具体的な対象業務と主な機能、そのファンクション数が明記されています。一方、これは計画時の指標として使われているだけで、実績の指標について何も記載されていません。したがって、プロジェクト計画時においてプロジェクトオーナであるE部長と合意しておくべき事項は、機能量の実績としてもファンクション数を使うことです。もし、ファンクション以外の指標を使用して実績を評価したならば、計画との差異を正しく管理できなくなってしまいます。
∴ファンクション数合計を機能量のベースラインにすること
設問3
変更申請の発生と対応について,(1),(2)に答えよ。
- 追加開発対象を,見直し後の優先度が"高"のものとし,代替案を採用すると,追加開発後のプロジェクト予備費の残額は何万円になるか,数値で答えよ。
- 変更申請の審議をより円滑に行うために,審議に先立って,開発費用の見積りを行っておくことが有効である。これ以外に,プロジェクトマネージャが変更申請を受理した後,審議に先立って行っておくべきことを二つ挙げ,それぞれ10字以内で答えよ。
解答入力欄
- 万円
- ①:
- ②:
解答例・解答の要点
- 50
- ①:開発期間の見積り (8文字)
- ②:代替案の検討 (6文字)
解説
- 変更申請された機能のうち、「入荷連絡業務のメール送信機能は,現行のメールシステムで代用できるので,必須の機能とまでは言えない」と記載されているので、見直し後の優先度が"高"の対象ではないことがわかります。優先度が"高"ではない機能は、プロジェクトへの影響を考慮して、開発対象とするかしないかを選択できるので、コスト超過となる今回の場面では「開発しない」ことを選択することとなります。
また、指定予約キャンセル機能については、- 予約履歴データ保存機能を除けば,指定予約キャンセル機能は,表1の予約の完了機能によって代替できる
- 予約履歴データ保存機能の開発費用は30万円
以上より、変更申請による追加開発の対象は、- 引取り期限設定(50万円)
- 期限切れ予約検索(120万円)
- 予約履歴データ保存機能(30万円)
∴50 - 問題文に「変更申請の審議をより円滑に行うために」と記載されていますので、まず、今回、変更申請の審議のどこが円滑でなかったのかを本文から探します。表2の後からの記載に着目します。変更申請が再審議されていること、スコープ変更の再審議が行われるにあたり開発期間の見積もりを行っていること、追加開発を極力減らすために代替案について利用部門のF課長とやり取りを行っていることの3点があります。このうち、変更申請が再審議に至った理由は、申請された機能の中に業務上必須とは言えない機能が含まれていたためで、利用者が優先度の妥当性についてしっかり検討していれば防げたことなので、プロジェクトマネージャの責任範囲にはありません。したがって、これ以外の2点を解答とします。
∴開発期間の見積り
代替案の検討