応用情報技術者過去問題 平成29年春期 午後問11
⇄問題文と設問を画面2分割で開く⇱問題PDF問11 システム監査
新会計システム導入に関する監査について,次の記述を読んで,設問1~5に答えよ。
L社は,中堅の総合商社であり,子会社が6社ある。L社及び子会社6社は,長い間,同じ会計システム(以下,旧会計システムという)を利用してきたが,ソフトウェアパッケージをベースにした新会計システムに,2年掛かりで移行させる予定である。ただし,子会社のM社だけは,既に新会計システムを導入して3か月が経過している。
L社の監査室は,L社,及びM社を除く子会社5社が新会計システムの導入に着手する前に,M社の新会計システムに関する運用状況のシステム監査を実施し,検討すべき課題を洗い出すことにした。
〔予備調査の概要〕
新会計システムについて,M社に対する予備調査で入手した情報は,次のとおりである。
1. 伝票入力業務の特徴及び現状
旧会計システムでは,経理部員が手作業で起票し,経理課長の承認印を受けた後,起票者が伝票入力して,仕訳データを生成していた。このため,手作業が多く,紙の帳票も大量に作成されていた。
新会計システムでの伝票入力業務の特徴及び現状は,次のとおりである。
新会計システムにおける伝票入力業務の手続は,次のとおりである。
M社は,大量の仕入・販売取引を仕入販売システムで処理している。旧会計システムでは,仕入販売システムから出力した月次集計リストに基づいて,経理部が手作業で伝票入力をしていた。これに対し,新会計システム導入後は,夜間バッチ処理で仕入販売システムから会計連携データを生成した後に,経理部員が新会計システムへの"取込処理"を実行するように改良した。
新会計システムでは,各部署の利用者が自ら分析ツールを利用して仕訳データの抽出・集計が可能であることから,効果的な管理資料が作成でき,各部署での会計情報の利用増加が期待されていた。しかし,一部の利用者からは,"新会計システムでは仕入・販売取引に関する情報が不足しており,必要な分析ができない"という意見があった。
〔本調査の計画〕
L社の監査室では,予備調査の情報に基づいて監査項目を検討し,本調査の監査手続を表1にまとめた。
L社は,中堅の総合商社であり,子会社が6社ある。L社及び子会社6社は,長い間,同じ会計システム(以下,旧会計システムという)を利用してきたが,ソフトウェアパッケージをベースにした新会計システムに,2年掛かりで移行させる予定である。ただし,子会社のM社だけは,既に新会計システムを導入して3か月が経過している。
L社の監査室は,L社,及びM社を除く子会社5社が新会計システムの導入に着手する前に,M社の新会計システムに関する運用状況のシステム監査を実施し,検討すべき課題を洗い出すことにした。
〔予備調査の概要〕
新会計システムについて,M社に対する予備調査で入手した情報は,次のとおりである。
1. 伝票入力業務の特徴及び現状
旧会計システムでは,経理部員が手作業で起票し,経理課長の承認印を受けた後,起票者が伝票入力して,仕訳データを生成していた。このため,手作業が多く,紙の帳票も大量に作成されていた。
新会計システムでの伝票入力業務の特徴及び現状は,次のとおりである。
- 新会計システムでは,経費の請求などは各部署で直接伝票を入力することにした。そのために,経理部は各部署に操作手順書を配布し,伝票入力業務説明会を実施した。また,各部署で入力された伝票データ(以下,仮伝票データという)に対して各部署の上司が承認入力を行うことで仕訳データを生成し,請求書などの証ひょう以外に紙は一切使用しないようにした。①新会計システムに承認入力を追加することによって,旧会計システムにおいて不正防止のために経理部が伝票入力後に実施していたコントロールは,不要となった。
- 新会計システムでは,各利用者に対し,権限マスタで,伝票の種類(経費請求伝票,支払依頼伝票,振替伝票など)ごとに入力権限と承認権限が付与される。
- 経理部によると,"各部署で入力された仕訳データの消費税区分,交際費勘定科目などに誤りが散見される"ということであった。
新会計システムにおける伝票入力業務の手続は,次のとおりである。
- 担当者が入力すると伝票番号が自動採番され,仮伝票データとして登録される。このとき,担当者は証ひょうに伝票番号を記入する。
- 承認者が仮伝票データの内容を画面で確認し,適切であれば承認入力を行う。
- 承認入力が済むと,仮伝票データから仕訳データが生成され,仮伝票データは削除される。仕訳データには,仮伝票データの入力日と承認日が記録される。
- 承認された伝票の証ひょうは,経理部に送られる。
- 経理部は,各部署から送られてきた証ひょうを保管する。
M社は,大量の仕入・販売取引を仕入販売システムで処理している。旧会計システムでは,仕入販売システムから出力した月次集計リストに基づいて,経理部が手作業で伝票入力をしていた。これに対し,新会計システム導入後は,夜間バッチ処理で仕入販売システムから会計連携データを生成した後に,経理部員が新会計システムへの"取込処理"を実行するように改良した。
- 会計連携データは,システム部が日次の夜間バッチ処理で生成している。会計連携データには,必須項目の他に,各子会社が必要に応じて設定した任意項目が含まれている。これらの項目は仕訳データに引き継がれ,新会計システムの情報として利用される。
- 夜間バッチ処理の翌朝,経理部員が取込処理を実行することで,会計連携データが新会計システムに取り込まれる。
- 経理部によると,"新会計システム導入当初には,取込処理の漏れ,及びエラ一発生などによる未完了が発生していた。また,夜間バッチ処理のトラブルで会計連携データが生成されず,前日と同じ会計連携データを取り込んでしまったこともある"ということであった。この対策として,経理部では,当月から取込処理の実施前と実施後に追加の手続を実施することにした。
新会計システムでは,各部署の利用者が自ら分析ツールを利用して仕訳データの抽出・集計が可能であることから,効果的な管理資料が作成でき,各部署での会計情報の利用増加が期待されていた。しかし,一部の利用者からは,"新会計システムでは仕入・販売取引に関する情報が不足しており,必要な分析ができない"という意見があった。
〔本調査の計画〕
L社の監査室では,予備調査の情報に基づいて監査項目を検討し,本調査の監査手続を表1にまとめた。
設問1
表1中のa~cに入れる適切な字句を,それぞれ10字以内で答えよ。
解答入力欄
- a:
- b:
- c:
解答例・解答の要点
- a:伝票入力業務説明会 (9文字)
- b:仮伝票データ (6文字)
- c:入力日 (3文字)
解説
会計システムを題材として、新システム導入当初における運用状況の監査手続を検討する能力が問われています。新システムの導入によって業務プロセスが変更されて、コントロールの効かせ方が変わるところに焦点が当てられています。本文で状況が説明されている箇所(本問では〔予備調査の概要〕)から、解答になりそうな文言を探すことが基本ですが、システム監査で頻繁にコントロール不備として指摘対象になるパターンをいくつか念頭に置いておくことで、文言のあたりをつけることができます。読む量が多く、解答時間がギリギリにならざるをえない午後問題においては特に重要です。本問では設問2における職務分離とシステム入力権限がそれにあたります。
〔aについて〕
「伝票入力業務が正確・適時に行われているか」を監査する手続きなので、〔予備調査の概要〕の「1. 伝票入力業務の特徴及び現状」と「2. 伝票入力業務の手続」を読み込みます。
[a]を含む監査手続きでは、各部署の承認者が伝票の正確性を確認できるようになっているかを確かめようとしています。これについては「新会計システムでは,経費の請求などは各部署で直接伝票を入力することにした。そのために,経理部は各部署に操作手順書を配布し,伝票入力業務説明会を実施した」との記載があります。経理部では各部署に新会計システムに関する説明を実施していますが、この教育が適切に実施されたかどうかを監査手続きで確認することになります。
空欄に入りうるのは「操作手順書」か「伝票入力業務説明会」ですが、空欄の後に「実施されたかどうかを確かめる」と続くので、伝票入力業務説明会 が正解となります。
∴a=伝票入力業務説明会
〔b、cについて〕
項番1③の監査手続は伝票入力業務の適時性を確かめようとしています。文の冒頭にあるように、仕訳データ内の「仮伝票の入力日と承認日」を比較することで、承認済みの伝票については適時に行われていることを確認できます。
しかし、これだけではまだ不十分です。〔予備調査の概要〕1.(1)に「各部署で入力された伝票データ(以下,仮伝票データという)に対して各部署の上司が承認入力を行うことで仕訳データを生成し」ているとあるので、仕訳データのなかで比較できるのは承認まで終わっているものだけです。入力だけでは仕訳データが生成されないので仕訳データ内の突合・照合では検出できません。よって、別の手段で監査実施日と仮伝票データの入力日の比較も行わなければ、入力されたまま承認されずに放置されている伝票について監査できないのです。
このためには、仮伝票データ の 入力日 と監査実施日を比較し、監査実施日より前の仮伝票が残っていないかを調べる必要があります。承認されないままの仮伝票が存在しなければ、承認作業が適時に行われていることになります。
∴b=仮伝票データ
c=入力日
〔aについて〕
「伝票入力業務が正確・適時に行われているか」を監査する手続きなので、〔予備調査の概要〕の「1. 伝票入力業務の特徴及び現状」と「2. 伝票入力業務の手続」を読み込みます。
[a]を含む監査手続きでは、各部署の承認者が伝票の正確性を確認できるようになっているかを確かめようとしています。これについては「新会計システムでは,経費の請求などは各部署で直接伝票を入力することにした。そのために,経理部は各部署に操作手順書を配布し,伝票入力業務説明会を実施した」との記載があります。経理部では各部署に新会計システムに関する説明を実施していますが、この教育が適切に実施されたかどうかを監査手続きで確認することになります。
空欄に入りうるのは「操作手順書」か「伝票入力業務説明会」ですが、空欄の後に「実施されたかどうかを確かめる」と続くので、伝票入力業務説明会 が正解となります。
∴a=伝票入力業務説明会
〔b、cについて〕
項番1③の監査手続は伝票入力業務の適時性を確かめようとしています。文の冒頭にあるように、仕訳データ内の「仮伝票の入力日と承認日」を比較することで、承認済みの伝票については適時に行われていることを確認できます。
しかし、これだけではまだ不十分です。〔予備調査の概要〕1.(1)に「各部署で入力された伝票データ(以下,仮伝票データという)に対して各部署の上司が承認入力を行うことで仕訳データを生成し」ているとあるので、仕訳データのなかで比較できるのは承認まで終わっているものだけです。入力だけでは仕訳データが生成されないので仕訳データ内の突合・照合では検出できません。よって、別の手段で監査実施日と仮伝票データの入力日の比較も行わなければ、入力されたまま承認されずに放置されている伝票について監査できないのです。
このためには、仮伝票データ の 入力日 と監査実施日を比較し、監査実施日より前の仮伝票が残っていないかを調べる必要があります。承認されないままの仮伝票が存在しなければ、承認作業が適時に行われていることになります。
∴b=仮伝票データ
c=入力日
設問2
表1中のdに入れる適切な字句を,5字以内で答えよ。
解答入力欄
- d:
解答例・解答の要点
- d:入力権限 (4文字)
解説
〔dについて〕
伝票入力業務の不正が防止されているかを職務分離の観点から確認します。すなわち、特定人に権限が集中していないかを確認するということです。
権限については本文中に「新会計システムでは,各利用者に対し,権限マスタで,伝票の種類(経費請求伝票,支払依頼伝票,振替伝票など)ごとに入力権限と承認権限が付与される」と記載されています。つまり、権限マスタを見て、ある伝票について同一人に 入力権限 と承認権限が同時に設定されていないことを確かめればよいことになります。
∴d=入力権限
伝票入力業務の不正が防止されているかを職務分離の観点から確認します。すなわち、特定人に権限が集中していないかを確認するということです。
権限については本文中に「新会計システムでは,各利用者に対し,権限マスタで,伝票の種類(経費請求伝票,支払依頼伝票,振替伝票など)ごとに入力権限と承認権限が付与される」と記載されています。つまり、権限マスタを見て、ある伝票について同一人に 入力権限 と承認権限が同時に設定されていないことを確かめればよいことになります。
∴d=入力権限
設問3
〔予備調査の概要〕の下線①で想定されていた旧会計システムでの不正を,20字以内で述べよ。
解答入力欄
- o:
解答例・解答の要点
- o:経理部員が承認を受けずに伝票を入力する (19文字)
解説
〔予備調査の概要〕の「1. 伝票入力業務の特徴及び現状」より、旧会計システムにおいてどんな不正が起きる可能性があったかを考えます。
まず、旧会計システムの処理手順について述べられている箇所に注目します。「旧会計システムでは,経理部員が手作業で起票し,経理課長の承認印を受けた後,起票者が伝票入力して,仕訳データを生成していた」と記載されています。この手順では、起票者である経理部員自身が伝票入力もするので、経理課長の承認を得ずに伝票を入力してしまうことも可能です。
新システムでは、承認を経なければ仕訳データが作成されないようになっているため、入力者の不正を防止できます。下線①の「不正防止のために経理部が伝票入力後に実施していたコントロール」とは、手で起票された伝票上の承認印と仕訳データの突合せチェックであったと推察できます。
∴経理部員が承認を受けずに伝票を入力する
まず、旧会計システムの処理手順について述べられている箇所に注目します。「旧会計システムでは,経理部員が手作業で起票し,経理課長の承認印を受けた後,起票者が伝票入力して,仕訳データを生成していた」と記載されています。この手順では、起票者である経理部員自身が伝票入力もするので、経理課長の承認を得ずに伝票を入力してしまうことも可能です。
新システムでは、承認を経なければ仕訳データが作成されないようになっているため、入力者の不正を防止できます。下線①の「不正防止のために経理部が伝票入力後に実施していたコントロール」とは、手で起票された伝票上の承認印と仕訳データの突合せチェックであったと推察できます。
∴経理部員が承認を受けずに伝票を入力する
設問4
表1中のe,fに入れる適切な字句を,それぞれ10字以内で答えよ。
解答入力欄
- e:
- f:
解答例・解答の要点
- e:夜間バッチ処理 (7文字)
- f:処理の正常終了 (7文字)
解説
取込処理が適切に実行されているかについての監査手続が問われていますので、〔予備調査の概要〕の「3.仕入販売システムとのインタフェース」を読み込みます。すると、(3)に「新会計システム導入当初には,…ということであった」という経理部から得られた問題点が記載されています。eとfを含むコントロールは、この問題点の対策として実施される手続です。
〔eについて〕
取込処理は、夜間バッチ処理で仕入販売システムから会計連携データを一括生成した後に、新会計システムに取り込むためのものであり、夜間バッチ処理の翌朝、経理部員によって実行されます。
本文中に「夜間バッチ処理のトラブルで会計連携データが生成されず,前日と同じ会計連携データを取り込んでしまったこともある」という記載がありますので、夜間バッチ処理の結果をチェックし、トラブルなしに生成されたかを確かめることが適切なコントロールになります。
したがってeの処理前に行うべき内容は、夜間バッチ処理 の結果のチェックになります。
∴e=夜間バッチ処理
〔fについて〕
eの処理後には、会計連携データが新会計システムに取り込まれます。「新会計システム導入当初には,取込処理の漏れ,及びエラ一発生などによる未完了が発生していた」という記載がありますので、取込処理後には漏れやエラーの発生がなく正常に完了したかどうかを確認することが適切なコントロールになります。
したがってfの処理後に行うべき内容は、処理の正常終了 のチェックになります。
∴f=処理の正常終了
〔eについて〕
取込処理は、夜間バッチ処理で仕入販売システムから会計連携データを一括生成した後に、新会計システムに取り込むためのものであり、夜間バッチ処理の翌朝、経理部員によって実行されます。
本文中に「夜間バッチ処理のトラブルで会計連携データが生成されず,前日と同じ会計連携データを取り込んでしまったこともある」という記載がありますので、夜間バッチ処理の結果をチェックし、トラブルなしに生成されたかを確かめることが適切なコントロールになります。
したがってeの処理前に行うべき内容は、夜間バッチ処理 の結果のチェックになります。
∴e=夜間バッチ処理
〔fについて〕
eの処理後には、会計連携データが新会計システムに取り込まれます。「新会計システム導入当初には,取込処理の漏れ,及びエラ一発生などによる未完了が発生していた」という記載がありますので、取込処理後には漏れやエラーの発生がなく正常に完了したかどうかを確認することが適切なコントロールになります。
したがってfの処理後に行うべき内容は、処理の正常終了 のチェックになります。
∴f=処理の正常終了
設問5
表1中のg入れる適切な字句を,15字以内で答えよ。
解答入力欄
- g:
解答例・解答の要点
- g:会計連携データの任意項目 (12文字)
解説
〔gについて〕
〔予備調査の概要〕の「4. 管理資料」に「一部の利用者からは,"新会計システムでは仕入・販売取引に関する情報が不足しており,必要な分析ができない"という意見があった」という記載があることに注目します。
この「仕入・販売取引に関する情報」が不足しているのは、夜間バッチ処理で生成され、仕訳データを含む会計連携データです。監査手続には設計時に遡ることが記載されていますので、予備調査で判明している利用者の不満の原因をクリアした状態で新システムの運用を始めるためには、設計時に何をすべきであったかを考察します。
本文中の「会計連携データには,必須項目の他に,各子会社が必要に応じて設定した任意項目が含まれている」に着目すると、この任意項目に「仕入・販売取引に関する情報」を含められたことがわかります。つまり、仕入・販売取引に関する情報が不足する事態に陥ったのは、任意項目にどんな項目を含めるかが設計時に適切に検討されていなかったからだと言えます。
∴g=会計連携データの任意項目
〔予備調査の概要〕の「4. 管理資料」に「一部の利用者からは,"新会計システムでは仕入・販売取引に関する情報が不足しており,必要な分析ができない"という意見があった」という記載があることに注目します。
この「仕入・販売取引に関する情報」が不足しているのは、夜間バッチ処理で生成され、仕訳データを含む会計連携データです。監査手続には設計時に遡ることが記載されていますので、予備調査で判明している利用者の不満の原因をクリアした状態で新システムの運用を始めるためには、設計時に何をすべきであったかを考察します。
本文中の「会計連携データには,必須項目の他に,各子会社が必要に応じて設定した任意項目が含まれている」に着目すると、この任意項目に「仕入・販売取引に関する情報」を含められたことがわかります。つまり、仕入・販売取引に関する情報が不足する事態に陥ったのは、任意項目にどんな項目を含めるかが設計時に適切に検討されていなかったからだと言えます。
∴g=会計連携データの任意項目